その手を、もう離さない


「美都?」

不意に呼ばれて顔を上げる。

翡翠が少しだけ心配そうな顔をしていた。

どうやら考え込みすぎていたらしい。

「本当に大丈夫?」

そう聞かれ、美都は一瞬だけ返事に困った。

大丈夫だ。

体調が悪いわけじゃない。

何か悩みがあるわけでもない。

ただ好きな人の名前を呼びたいだけ。

そんなこと言えるはずがない。

だから小さく頷く。

「考え事」

短くそう答えると、翡翠は納得したようなしないような顔をした。

その反応が少し可笑しくて、美都は思わず視線を逸らす。

本当に翡翠は変わらない。

優しい。

だから困る。

その優しさに甘えたくなるから。