その手を、もう離さない


「どうしたの?」

不思議そうな声が聞こえる。

気付けば翡翠がこちらを見ていた。

考え事をしていたらしい。

美都は小さく首を振った。

「別に」

いつもの返事。

けれど翡翠は納得していない顔だった。

最近気付いたことがある。

翡翠は意外と勘がいい。

自分が隠しているつもりのことも、案外見抜かれている。

だから困る。

好きな人にだけ弱いところを見せたくなるくせに、本音を知られるのは恥ずかしい。

そんな矛盾した感情を抱えている自分に、美都は少しだけ苦笑した。

恋人になる前は、こんなことで悩まなかったのに。

好きな人が恋人になった途端、世界は思っていたよりずっと忙しくなるらしい。