その手を、もう離さない


ホームルーム前の教室は騒がしかった。

友達同士で話す声や笑い声があちこちから聞こえる。

そんな中、美都の視線は自然と窓際へ向かっていた。

翡翠がいる。

友達に囲まれながら楽しそうに笑っている。

その姿を見た瞬間、胸の奥が少しだけ温かくなった。

最近は本当にそうだ。

翡翠が笑っているだけで安心する。

元気そうな顔を見るだけでほっとする。

昔の自分なら信じなかっただろう。

誰か一人の存在で、こんなにも気持ちが左右されるなんて。

けれど今は、それが当たり前になり始めていた。

ふと翡翠がこちらを見る。

目が合う。

すると、ふわりと笑った。

それだけだった。

本当にそれだけなのに、胸が大きく跳ねる。

慌てて視線を逸らしながら、美都は小さく息を吐いた。

相変わらず心臓に悪い。

恋人になったからといって慣れるわけではないらしい。

むしろ前より酷くなっている気さえする。