その手を、もう離さない


「ねぇ」

しばらく本を読んでいた翡翠が不意に声を上げた。

その声音には少しだけ迷いが混じっていた。

何か言いたいことがある時の声だと、最近は分かる。

美都は本から視線を上げた。

「何」

短く返す。

すると翡翠は一瞬だけ言葉を探すように視線を泳がせた。

それから小さく笑う。

「最近ね」

そこで区切る。

そして少し照れたように続けた。

「美都、前よりいっぱい笑うようになったよね」

その言葉に、美都は思わず固まった。

自覚がなかったからだ。

笑っているつもりなんてなかった。

むしろ今まで通りのつもりだった。

けれど翡翠は本気らしい。

「本当に?」

そう聞き返してくる目は真っ直ぐだった。

からかっているわけではない。

だから余計に返事に困る。

美都は小さく視線を逸らした。

知らなかった。

自分では気付かないところで、そんなに変わっていたなんて。

そして同時に気付く。

その変化の理由も。

たぶん。

全部、翡翠のせいだ。