その手を、もう離さない


「美都、おはよ」

昼なのに相変わらずそう言う。

初めて聞いた時は変なやつだと思った。

けれど最近は訂正することもなくなった。

慣れてしまったのだ。

翡翠らしいな、と。

そう思うようになった。

「昼」

短く返す。

すると翡翠は楽しそうに笑った。

そのやり取りも、もう何度目だろう。

同じ会話なのに飽きない。

むしろ少し安心する。

変わらないものがあることに。

翡翠は隣をぽんぽんと叩く。

座れという意味だ。

美都は何も言わず腰を下ろした。

肩が触れそうな距離。

付き合う前から変わらない距離。

なのに今は少しだけ違う。

この距離に安心している自分がいる。

離れているより、近い方が落ち着く。

そんなことを考える日が来るなんて思わなかった。