その手を、もう離さない


扉を開く。

すると、いつもの場所に翡翠がいた。

窓際に座り、本を読んでいる。

その姿を見た瞬間、胸の奥にあった妙な落ち着かなさが消えていく。

安心する。

その感覚に、美都は未だに慣れなかった。

会えないわけじゃない。

同じ学校なのだから、朝だって顔を見ている。

それなのに昼休みに改めて姿を見ると、ほっとするのだ。

翡翠はこちらに気付くと顔を上げた。

そしてふわりと笑う。

たったそれだけのことなのに、胸が少しだけ温かくなる。

最近は本当に駄目だなと思う。

以前なら気にも留めなかったようなことまで意識してしまう。

好きな人が笑うだけで嬉しいなんて、自分でも単純すぎると思った。