その手を、もう離さない


翡翠は何も言わなかった。

ただ少しだけ歩く距離が近くなる。

肩が触れるか触れないか。

本当にそれだけ。

それだけなのに、妙に心臓がうるさい。

夕暮れの風が吹く。

二人の影が並ぶ。

翡翠は嬉しそうだった。

隠しきれないくらい。

その横顔を見ながら、美都は思う。

たぶん自分は。

思っていた以上に甘やかされている。

そして。

思っていた以上に、それが嫌じゃない。

むしろ少しだけ心地良いと思っている自分がいた。