限界王子様に「構ってくれないと、女遊びするぞ!」と脅され、塩対応令嬢は「お好きにどうぞ」と悪気なくオーバーキルする。

 白い看護服は変装だったらしい彼女は淡々とお父様の身の回りをゆっくりを見て、私をチラリと一瞥してから去って行った。

 敢えてそうしているのかもしれないけど、全く特徴らしい特徴がない顔と姿だった。今、私が服を変えたあの人を大通りで見掛けても、きっと気がつかないだろう。

 心臓が今までにない速度で、高鳴っていた。

 普段聞こえないはずのドクドクドクという大きな音は、耳に聞こえている。ここからどうにか私が裏口へと行かないと、クインは殺されてしまう。

 理性的な誰かなら、二人で死ぬより一人を見殺しにして良いと思うのかもしれない。

 だって、犯人は私が行けば、クインを解放するとは書いていない。

 いいえ。もし、書いていたからって、なんなの。こんなことをするような、卑劣な犯人なのよ。

 私にとってクインはたった一人の弟で、亡き母にも立派に成長させると約束した大事な男の子だ。ほんの少しでも、あの子が生きられる可能性があるのなら、私はそこへ向かうしかない。

 それに、今はイーサンが居てくれる。

 利に聡い商売人なら、人情を犠牲にするのかも。