「朝比奈くん」 私が呼ぶ。 伊織は立ち止まった。 窓から夕陽が差し込む。 私は少しだけ迷った。 でも。 気付けば言葉が出ていた。 「無理して笑わなくてもいいんだよ」 伊織の表情が固まる。 初めて見る顔だった。 驚いたような。 戸惑ったような。 そんな顔。 数秒。 沈黙が落ちる。 やがて。 伊織は小さく笑った。 だけど。 その笑顔は少しだけ寂しそうだった。 「天音さんって」 伊織が呟く。 「意外と鋭いね」