顔を上げる。 そこには。 いつもの朝比奈伊織がいた。 柔らかい笑顔。 さっきまでの冷たい表情は消えている。 「どうしたの?」 「えっ、あ……」 私は慌てる。 見ていたことを言うべき? でも。 何だか言えなかった。 「スマホ忘れて……」 咄嗟にそう答える。 伊織はくすっと笑った。 「それは大変だ」 いつもの伊織。 でも。 私はさっきの顔を知ってしまった。