「父親は?」 気付けば聞いていた。 伊織は苦笑する。 「興味ないんだと思う」 寂しそうな笑顔。 「家にも病院にもほとんど来ない」 胸が痛くなる。 「だから家のことは全部俺」 伊織は前を向いたまま言った。 「妹もいるし」 「本当はさ」 伊織が小さく呟く。 「しんどい時もある」 私は黙って聞く。 「疲れたって思う時もある」 「逃げたいって思う時もある」 掠れた声だった。 「でも俺がやらないと誰もやらないから」 その言葉が苦しかった。