彼を意識してからの日々は早かった。
毎日が目まぐるしく、あっという間に過ぎていく。
そんな中でも、神崎くんは変わらなかった。
変わったのは、私だけ。
私は、意を決して声をかける。
「……今日の夜、空いてる?」
神崎くんは目を見開き、一瞬止まった。
そして、少し緊張した笑顔で返す。
「あけます」
ただ、それだけ。
短い返事が返ってきた。
まるで、最初からそう言うと決めていたかのように。
夜。
私はあえて神崎くんを待たずにオフィスを出る。
いつもの洋食屋へ向かい、メッセージを送る。
《洋食屋で待ってます》
先に前菜とワインだけ注文して待つ。
料理が届くのとほぼ同時に、神崎くんは店にやってきた。
「リーダー、お待たせしました」
「うん……」
私は緊張してしまい、ワインを一口飲む。
「あ、神崎くんも飲み物どうする?」
ウェイターが気づいて注文を取りにくる。
「じゃあ、同じものを……」
ウェイターが席を離れると、沈黙が流れる。
「……」
「……」
「夜にこちらの店に来るのは、初めてですね」
神崎くんが切り出す。
「そうだね」
「……」
「……」
「比留間さん。話が、あるんじゃないですか?」
「……あの、上手く話せなくてごめんね」
「いえ……僕も、こういう時どうすればいいのか分からず……」
そこにワインが届く。
神崎くんが一口飲み、つられて私も一口飲む。
「私……ずっと神崎くんのこと、頼れる後輩だと思ってきた」
「……光栄です」
「でも、神崎くんは……私をただの先輩とは、思ってないんだよね……?」
「はい。一人の女性として、好きです」
自分で尋ねておいて、その返しに余裕がなくなる。
「私、神崎くんがどこを好きになってくれたのか分からない」
ワインの酔いのせいか、言葉が少しだけ軽くなる。
「神崎くんは若いし、イケメンだし、仕事できるし、シスコンだし……」
「……え? シスコン?」
「でも、優しいし、手は大きいし、ずっと側にいてくれて……」
「……それは、つまり?」
「私も、神崎くんが側にいなくなるのは嫌」
「……上司として、ですか?」
「違う」
「先輩として、ですか?」
「違うってば。……神崎くんの隣に、私以外の女の子がいるのは嫌」
言った瞬間、自分の顔が熱くなるのが分かる。
全部、ワインのせい。
「ずっと側にいます。比留間さん以外の女性なんて、興味ありません」
即答だった。
「五年前から、そのつもりでした。会社を辞めても、比留間さんから離れるつもりはありません」
その言葉に、私は思わず笑ってしまう。
「……それ、重いよ」
「え?」
「神崎くん、気づいてる? 神崎くんの愛、重いよ」
「えっ……え……?」
「妹の写真持ち歩いたり」
「!?」
「五年間片想いし続けたり」
目を見開いて、不安そうに固まる。
「多分、私じゃなきゃ受け止めきれない」
「!!」
神崎くんの表情が、待てを解除された犬みたいになる。
「比留間さん、好きです」
「……うん」
「……比留間さんからも、欲しいです」
神崎くんは照れながら、小さな声で言った。
飲もうとしたワインを吹き出しそうになる。
「……それは……追々ね」
しっぽの下がった犬みたいになる。
「まだ言えないの。お店だし……二人きりのときにね」
神崎くんのしっぽが、また上がる。
「……あと、妹さんを紹介してくれる?」
「え?」
「会ってみたいから」
「はい!」
笑顔が眩しい。
「ねぇ?」
酔いのせいか、少しだけ大胆になる。
「はい」
「神崎くんは、私のどこを好きになったの? 最初は、防衛線張ってたじゃない?」
神崎くんは、少し耳を赤くしながら、それでも誠実に答えてくれる。
「その……防衛線を張っていたことを見抜かれた時です」
「え?」
「防衛線を張っていたのは……僕が比留間さんに、男として見られたかったからだと、その時気づきました。……だから、好きになっていたのは、もう少し前からかもしれません」
「そんな前から……」
「だって比留間さんは、いつも真正面から僕を見てくださっていたから」
「それは……教育係だったし……」
「だからです。その……男としてではなく、人間として真正面から見てくださる姿勢に惹かれたのかもしれません」
「それは……ちょっと自信あるかも」
「好きです」
「分かったってば……」
少しだけ、意地悪をしたくなる。
「……でも、私の写真を持ち歩くのはやめてね」
「……なんでですか?」
「だから、重いってば。……それに、恥ずかしい」
「そうですか……。あの、家族写真になったら持ち歩いてもいいですか?」
「家族って……」
「僕は、そのつもりで比留間さんとお付き合いするつもりです」
「……交際初日から重いってば」
「……ダメですか?」
「そりゃ……私もう30だし……考えてなくはないけど……」
「じゃあ、今度、一緒に写真を撮りましょう」
毎日が目まぐるしく、あっという間に過ぎていく。
そんな中でも、神崎くんは変わらなかった。
変わったのは、私だけ。
私は、意を決して声をかける。
「……今日の夜、空いてる?」
神崎くんは目を見開き、一瞬止まった。
そして、少し緊張した笑顔で返す。
「あけます」
ただ、それだけ。
短い返事が返ってきた。
まるで、最初からそう言うと決めていたかのように。
夜。
私はあえて神崎くんを待たずにオフィスを出る。
いつもの洋食屋へ向かい、メッセージを送る。
《洋食屋で待ってます》
先に前菜とワインだけ注文して待つ。
料理が届くのとほぼ同時に、神崎くんは店にやってきた。
「リーダー、お待たせしました」
「うん……」
私は緊張してしまい、ワインを一口飲む。
「あ、神崎くんも飲み物どうする?」
ウェイターが気づいて注文を取りにくる。
「じゃあ、同じものを……」
ウェイターが席を離れると、沈黙が流れる。
「……」
「……」
「夜にこちらの店に来るのは、初めてですね」
神崎くんが切り出す。
「そうだね」
「……」
「……」
「比留間さん。話が、あるんじゃないですか?」
「……あの、上手く話せなくてごめんね」
「いえ……僕も、こういう時どうすればいいのか分からず……」
そこにワインが届く。
神崎くんが一口飲み、つられて私も一口飲む。
「私……ずっと神崎くんのこと、頼れる後輩だと思ってきた」
「……光栄です」
「でも、神崎くんは……私をただの先輩とは、思ってないんだよね……?」
「はい。一人の女性として、好きです」
自分で尋ねておいて、その返しに余裕がなくなる。
「私、神崎くんがどこを好きになってくれたのか分からない」
ワインの酔いのせいか、言葉が少しだけ軽くなる。
「神崎くんは若いし、イケメンだし、仕事できるし、シスコンだし……」
「……え? シスコン?」
「でも、優しいし、手は大きいし、ずっと側にいてくれて……」
「……それは、つまり?」
「私も、神崎くんが側にいなくなるのは嫌」
「……上司として、ですか?」
「違う」
「先輩として、ですか?」
「違うってば。……神崎くんの隣に、私以外の女の子がいるのは嫌」
言った瞬間、自分の顔が熱くなるのが分かる。
全部、ワインのせい。
「ずっと側にいます。比留間さん以外の女性なんて、興味ありません」
即答だった。
「五年前から、そのつもりでした。会社を辞めても、比留間さんから離れるつもりはありません」
その言葉に、私は思わず笑ってしまう。
「……それ、重いよ」
「え?」
「神崎くん、気づいてる? 神崎くんの愛、重いよ」
「えっ……え……?」
「妹の写真持ち歩いたり」
「!?」
「五年間片想いし続けたり」
目を見開いて、不安そうに固まる。
「多分、私じゃなきゃ受け止めきれない」
「!!」
神崎くんの表情が、待てを解除された犬みたいになる。
「比留間さん、好きです」
「……うん」
「……比留間さんからも、欲しいです」
神崎くんは照れながら、小さな声で言った。
飲もうとしたワインを吹き出しそうになる。
「……それは……追々ね」
しっぽの下がった犬みたいになる。
「まだ言えないの。お店だし……二人きりのときにね」
神崎くんのしっぽが、また上がる。
「……あと、妹さんを紹介してくれる?」
「え?」
「会ってみたいから」
「はい!」
笑顔が眩しい。
「ねぇ?」
酔いのせいか、少しだけ大胆になる。
「はい」
「神崎くんは、私のどこを好きになったの? 最初は、防衛線張ってたじゃない?」
神崎くんは、少し耳を赤くしながら、それでも誠実に答えてくれる。
「その……防衛線を張っていたことを見抜かれた時です」
「え?」
「防衛線を張っていたのは……僕が比留間さんに、男として見られたかったからだと、その時気づきました。……だから、好きになっていたのは、もう少し前からかもしれません」
「そんな前から……」
「だって比留間さんは、いつも真正面から僕を見てくださっていたから」
「それは……教育係だったし……」
「だからです。その……男としてではなく、人間として真正面から見てくださる姿勢に惹かれたのかもしれません」
「それは……ちょっと自信あるかも」
「好きです」
「分かったってば……」
少しだけ、意地悪をしたくなる。
「……でも、私の写真を持ち歩くのはやめてね」
「……なんでですか?」
「だから、重いってば。……それに、恥ずかしい」
「そうですか……。あの、家族写真になったら持ち歩いてもいいですか?」
「家族って……」
「僕は、そのつもりで比留間さんとお付き合いするつもりです」
「……交際初日から重いってば」
「……ダメですか?」
「そりゃ……私もう30だし……考えてなくはないけど……」
「じゃあ、今度、一緒に写真を撮りましょう」



