それからの彼は、素直に頼ってくれるようになった。
ただ、少し素直すぎる気もする。
優秀なことには変わりないけれど、何だか距離感が近くなった。
私が教育係でなければ、好意と勘違いしてしまいそうなほどに。
「先輩、今日の夜は空いてませんか?」
「先輩のやり方を真似させていただいたら、先方から褒めていただけました」
「先輩、お疲れじゃないですか? コーヒーをどうぞ」
あの日以前とあまりに態度が違いすぎる。
分かっている。きっと、これが彼の素の姿。
私に好意があるわけじゃない。
そもそも、私は教育係で3歳も年上。彼の恋愛対象になるわけないんだから……。
大きなため息が漏れる。
「あさひ、お疲れ?」
同期の茉乃が声をかけてくれた。
「自分は教育係なんだよなって思ったら、ため息が漏れただけ」
「あさひは神崎くんの担当だっけ? 彼の教育係はハードル高そうだねぇ」
言葉とは裏腹に、ニヤニヤと楽しそうな表情だった。
「ねぇ、面白がってない?」
「そんなことはないよぉ? でも、色んな部署の女性陣が虎視眈々と狙ってるから、あんまり仲良くしてると妬まれるかもねぇ?」
そう言う茉乃の表情は、やはり心配しているというよりは面白がっていた。
「もう……手遅れかも」
「え? 何々? ジェラシーぶつけられちゃった?」
「それはまだないけど……彼が意外と人懐っこくて」
「へぇぇ〜……教育係と後輩なんて、背徳ラブロマンスだね」
「そういうのじゃないって」
「神崎くん、他の先輩にもそんな感じなの?」
「それは……分からないけど」
茉乃はニヤニヤしたまま頬杖をつく。
「確認した方がいいんじゃない?」
「何を?」
「教育係だから懐いてるだけなのか……あさひだから懐いてるのか?」
「ないない! あるわけない。ないでしょ……」
「ふぅ〜ん……」
つい先日までは、防衛線を張られていたんだから、そんなことがあるわけない。
そう、自分に言い聞かせた。
その日の昼休み。
「先輩、今日のお昼は外ですか? 一緒にいいですか?」
相変わらず、人懐っこく声をかけてくる。
「え?……えぇ」
茉乃のせいで、少し意識してしまう。
「ありがとうございます」
彼は、子犬のような人懐っこい笑顔を向けてきた。
そうして、私はよく行く洋食屋へ彼を案内した。
「へぇ。先輩はここによく食べに来るんですか?」
「そうね。少し提供に時間がかかるから、時間のないときは来られないけど、美味しいから」
「そうなんですね。僕も行きつけの店を作っていきたいな」
「そのうち自然にできるわよ」
「行きつけの店、先輩と同じになってもいいですか?」
また真っ直ぐな目を向けてくる。
「え?」
まただ。
また、そういう言い方をする。
でも、彼にはきっと他意はない。
「……まぁ、昼休みに行けるお店なんて限られるしね」
そこに注文したパスタが届く。
彼は口にした瞬間、目を輝かせる。
「意外と表情に出るのね。美味しい?」
「はい! ここのパスタ、モチモチでソースもよく絡んで、すごく美味しいです。妹に食べさせたら喜ぶと思います!」
「へぇ。神崎くんは妹がいるの?」
「はい。3つ下なので、今、大学2年生です」
「仲いいの?」
彼はなぜか、少し照れた顔をする。
「……はい。すごく可愛いんです。見ますか?」
そう言って、手帳の中から写真を取り出す。
「たしかに、雰囲気のある美人さんね」
「そうなんです。つい世話を焼きたくなってしまうんですよね……今はもう大人なんですけど」
「そう。なんだか、神崎くんと似てるね」
目を見開いて、また耳を赤くする。
「……そうですか?」
でも、嬉しそうだった。
そんな無防備な彼の表情にドキッとしながらも、思ってしまった。
――シスコンかな……?
昼食を終えて会社に戻ると、お手洗いに茉乃がいた。
「あさひ、見たよ? 神崎くんと仲良くランチデート?」
「だから、デートとかそういうのじゃないって」
「そうかなぁ? まぁ、でも、あさひに忠告ね。神崎くん、女の子の写真持ち歩いてるらしいよ」
「え?」
「この間、手帳の間に挟んでるのを受付の子が見たって。しかも美人」
「あはは……」
突然の私の失笑に、茉乃は目を丸くする。
「それ、妹の写真」
「へ?」
「神崎くん、妹と仲いいんだって。私、見せてもらったから」
「なぁんだ。そうなんだ」
茉乃は一瞬しらけた顔をして、そのあと顔をしかめる。
「いや、でも……普通、妹の写真って持ち歩く?」
茉乃の反応に、私もつい考えてしまう。
「……やっぱり、茉乃もそう思う?」
「……神崎くんて、シスコン?」
「かもね。まぁ、一つくらい欠点ないとね」
「彼女できたら大変そうだけどね」
茉乃は楽しそうに笑う。
「茉乃、やっぱり神崎くんのこと面白がってるでしょ?」
「ああいうのは目の保養。本気で好きになったら苦労するでしょ」
「……そうね」
思わず苦笑する。
たしかに、恋人になったら大変そうだ。
まぁ、私には関係のない話だけど。
ただ、少し素直すぎる気もする。
優秀なことには変わりないけれど、何だか距離感が近くなった。
私が教育係でなければ、好意と勘違いしてしまいそうなほどに。
「先輩、今日の夜は空いてませんか?」
「先輩のやり方を真似させていただいたら、先方から褒めていただけました」
「先輩、お疲れじゃないですか? コーヒーをどうぞ」
あの日以前とあまりに態度が違いすぎる。
分かっている。きっと、これが彼の素の姿。
私に好意があるわけじゃない。
そもそも、私は教育係で3歳も年上。彼の恋愛対象になるわけないんだから……。
大きなため息が漏れる。
「あさひ、お疲れ?」
同期の茉乃が声をかけてくれた。
「自分は教育係なんだよなって思ったら、ため息が漏れただけ」
「あさひは神崎くんの担当だっけ? 彼の教育係はハードル高そうだねぇ」
言葉とは裏腹に、ニヤニヤと楽しそうな表情だった。
「ねぇ、面白がってない?」
「そんなことはないよぉ? でも、色んな部署の女性陣が虎視眈々と狙ってるから、あんまり仲良くしてると妬まれるかもねぇ?」
そう言う茉乃の表情は、やはり心配しているというよりは面白がっていた。
「もう……手遅れかも」
「え? 何々? ジェラシーぶつけられちゃった?」
「それはまだないけど……彼が意外と人懐っこくて」
「へぇぇ〜……教育係と後輩なんて、背徳ラブロマンスだね」
「そういうのじゃないって」
「神崎くん、他の先輩にもそんな感じなの?」
「それは……分からないけど」
茉乃はニヤニヤしたまま頬杖をつく。
「確認した方がいいんじゃない?」
「何を?」
「教育係だから懐いてるだけなのか……あさひだから懐いてるのか?」
「ないない! あるわけない。ないでしょ……」
「ふぅ〜ん……」
つい先日までは、防衛線を張られていたんだから、そんなことがあるわけない。
そう、自分に言い聞かせた。
その日の昼休み。
「先輩、今日のお昼は外ですか? 一緒にいいですか?」
相変わらず、人懐っこく声をかけてくる。
「え?……えぇ」
茉乃のせいで、少し意識してしまう。
「ありがとうございます」
彼は、子犬のような人懐っこい笑顔を向けてきた。
そうして、私はよく行く洋食屋へ彼を案内した。
「へぇ。先輩はここによく食べに来るんですか?」
「そうね。少し提供に時間がかかるから、時間のないときは来られないけど、美味しいから」
「そうなんですね。僕も行きつけの店を作っていきたいな」
「そのうち自然にできるわよ」
「行きつけの店、先輩と同じになってもいいですか?」
また真っ直ぐな目を向けてくる。
「え?」
まただ。
また、そういう言い方をする。
でも、彼にはきっと他意はない。
「……まぁ、昼休みに行けるお店なんて限られるしね」
そこに注文したパスタが届く。
彼は口にした瞬間、目を輝かせる。
「意外と表情に出るのね。美味しい?」
「はい! ここのパスタ、モチモチでソースもよく絡んで、すごく美味しいです。妹に食べさせたら喜ぶと思います!」
「へぇ。神崎くんは妹がいるの?」
「はい。3つ下なので、今、大学2年生です」
「仲いいの?」
彼はなぜか、少し照れた顔をする。
「……はい。すごく可愛いんです。見ますか?」
そう言って、手帳の中から写真を取り出す。
「たしかに、雰囲気のある美人さんね」
「そうなんです。つい世話を焼きたくなってしまうんですよね……今はもう大人なんですけど」
「そう。なんだか、神崎くんと似てるね」
目を見開いて、また耳を赤くする。
「……そうですか?」
でも、嬉しそうだった。
そんな無防備な彼の表情にドキッとしながらも、思ってしまった。
――シスコンかな……?
昼食を終えて会社に戻ると、お手洗いに茉乃がいた。
「あさひ、見たよ? 神崎くんと仲良くランチデート?」
「だから、デートとかそういうのじゃないって」
「そうかなぁ? まぁ、でも、あさひに忠告ね。神崎くん、女の子の写真持ち歩いてるらしいよ」
「え?」
「この間、手帳の間に挟んでるのを受付の子が見たって。しかも美人」
「あはは……」
突然の私の失笑に、茉乃は目を丸くする。
「それ、妹の写真」
「へ?」
「神崎くん、妹と仲いいんだって。私、見せてもらったから」
「なぁんだ。そうなんだ」
茉乃は一瞬しらけた顔をして、そのあと顔をしかめる。
「いや、でも……普通、妹の写真って持ち歩く?」
茉乃の反応に、私もつい考えてしまう。
「……やっぱり、茉乃もそう思う?」
「……神崎くんて、シスコン?」
「かもね。まぁ、一つくらい欠点ないとね」
「彼女できたら大変そうだけどね」
茉乃は楽しそうに笑う。
「茉乃、やっぱり神崎くんのこと面白がってるでしょ?」
「ああいうのは目の保養。本気で好きになったら苦労するでしょ」
「……そうね」
思わず苦笑する。
たしかに、恋人になったら大変そうだ。
まぁ、私には関係のない話だけど。

