金木犀の奏鳴曲(ソナタ)

詩月の「追いかけてこい」は「頑張れ」と云う励ましのつもりだった。

詩月は「追いかけてこい」に「君ならやれるだろう」という期待をこめた。

「不器用だな。お前は何も気に病む必要ははい。郁はもう気持ちを切り替えてピアノ教師を目指しているのだから。忘れろ」

詩月は「そうですよね」と言いながら、郁子の顔が浮かんで苦笑いした。

すっかり冷めてしまった紅茶に口をつけ、ピアノ奏者の演奏に耳を傾けた。

大して上手くもない平凡な演奏が、ため息を誘った。

「忙しくしているようだが、体はどうなんだ?」

「可もなく不可もなく、と言いたいところですけど家に帰るとさすがにフラフラですね」

「大丈夫か、千住がひどく心配していた」

「彼女は、一緒にいると看護師が1人側にいるみたいです。ユリウスとも親しいみたいで」 

詩月ははにかんだように微笑んだ。