金木犀の奏鳴曲(ソナタ)

ーー素っ気ないわね

「毎晩、ユリウスが欠かさず晩酌しながらマルグリットを宥めている。サロン経営は気苦労がたいへんなんだろうな」

ーーマルグリットのサロンは思っている以上に格式の高いサロンみたい。わたしなんかが演奏できる場所ではないわ。あの安坂さんでも最初は全くウケなかったんでしょ?

「ああ、あの時は肝が冷えた。安坂さんはサロンでウケなくて、酷く落ちこんでいた。僕はただ、安坂さんの殻を破っただけだ。安坂さんが内に眠っていた熱情を開放させたんだ。」

詩月は当時のことを思い出していた。

安坂貢が自ら徹底的に解釈の見直しを要求してきたのだ。

解釈を何度も話し合い見直して、コンマス体質も指摘した。

誰に向かって演奏しているのかと。

ーーあなた、恐い人ね。あのクソ真面目な演奏が短期間で180度変わって、入賞したんですもの

「安坂さんは本気で、僕のピアノ伴奏に喧嘩を売ってきたからね」