恋とは、認めません!

12月のある日の放課後。
体育館は、冬の冷たい空気と部活生たちの熱気で満ちていた。
私が所属するバレー部は、コートの半分を使って熱心にスパイク練習をしている。
私はコートの隅っこで、散らばったボールをカゴに拾い集める「ボール拾い」をしていた。
パシッ、ドンッ、と小気味いい音が体育館に響く。
でも、私の視線は、どうしてもネットを挟んだ隣のコート――バスケ部が使っているエリアへと向かってしまっていた。
そこには、ビブスを着てディフェンスを鮮やかにかわしていく、陸様の姿があった。
「陸、いけーー!」
体育館の2階のギャラリーから、黄色い声援が響く。
そこには、部活がオフで応援に駆けつけた美波がいた。
陸様はギャラリーの美波に一瞬だけ視線を送り、ニカッと頼もしく笑ってみせた。
……あぁ、やっぱり2人はお似合いだな。
そう思った、次の瞬間だった。
ドリブルで切り込んだ陸様が、綺麗なフォームで高く跳び上がった。
夕方の光を浴びながら、まるでスローモーションのように宙を舞う陸様。
その手から放たれたボールは、綺麗な放物線を描いて、バサッとネットを揺らした。
見事な、逆転のスリーポイントシュート。
歓声が上がる中、陸様は着地し、前髪をクシャッと上げて満足そうに笑った。
かっこいい……。
チャラいと思っていたのに、誰よりも真っ直ぐで、努力家で、スポーツをしている時は信じられないくらい輝いている。
陸様のその姿を目に焼き付けた、まさにその瞬間だった。
「雫! 危ないっ!!」
部員の叫び声が聞こえた。
だけど、陸様に見とれていた私の身体は、一歩も動かなかった。
――バチィィィンッ!!!
強烈な衝撃が、私の頭の真横に直撃した。
バレー部のエースが全力で放った、容赦のないスパイク。
それが、ボール拾いをしていた私の頭にまともにクリーンヒットしたのだ。
「きゃっ……!」
視界がぐにゃりと歪み、私はそのまま体育館の床に激しく倒れ込んだ。
私は泣き出してしまった。
「雫! 大丈夫!? 痛かったよね、ごめん!!!!!」
「保健室! 誰か先生呼んで!」
周囲がパニックになる中、私の耳には、遠くの方からバタバタと激しい足音がこちらに走ってくるのが聞こえた。
ううん、違う。
これの涙は頭が痛いからじゃない。
「おい、望月!! 望月、しっかりしろ!!」
ネットを潜り抜けて、誰よりも早く私の元に駆けつけてくれたのは、息を切らした陸様だった。
陸様は心配そうに眉をひよませて、私の肩を抱き寄せた。
その大きな手、若狭旅行のときと同じ、優しくて、今にも泣きそうな声。
陸様の顔が、すぐ目の前にある。
頭はズキズキと激しく痛むのに、私の心臓は、それ以上の熱さでドクンドクンと暴れていた。
美波の彼氏。
他校の彼女に裏切られて、傷ついて、それを美波が救って、2人は今幸せで。
私はただの友達で、ファンで、応援しなきゃいけなくて。
……あぁ、もう、無理だ。
頭に受けた強い衝撃のせいで、今まで必死に守ってきた「嘘の壁」が、粉々に吹き飛んでしまった。
私……陸様のこと、推しとして好きなんじゃない。美波の彼氏として応援したいわけでもない。
胸の奥のチクチクした痛みの正体が、涙の正体が、完全に解けていく。

私、陸様のことが――一人の男の子として、大好きなんだ。

涙が、頭の痛みとは違う理由で、ボロボロと目から溢れ出した。
付き合ってしまった友達と、大好きな人。
その目の前で、私はついに、自分の恋心を認めざるを得なくなってしまった――。