恋とは、認めません!

夏休みが明け、2学期が始まった。
教室に入るなり、黒板には大きく「陸❤美波、祝・交際!」の文字。
周りの男子たちに冷やかされながら、美波は嬉しそうに陸様の腕に抱きついている。陸様も少し照れくさそうに笑っていた。
「雫、ありがとね!  応援してくれたおかげだよ!」
美波に笑顔で言われ、私は「おめでとう!」と返す。
胸の奥に、1本目の冷たい針がチクッと刺さった。

休み時間、これまでは私と話していたはずの陸様の席の隣には、当然のように美波が座っている。
美波が買ってきた購買のパンを、陸様が「ひと口ちょうだい」と言って当たり前のように口にする。
その距離は、もうファンの私が踏み込んでいい領域じゃなかった。
視線を逸らすたび、胸がチクッとした。


これまでは委員会で一緒に残ることもあったのに、今の陸様は放課後のチャイムが鳴ると同時に美波の席へ行く。
「雫、また明日ね!」と手を振る美波と、その隣で「おぅ、望月、またな」と微笑む陸様。
2人が手を繋いで帰っていく後ろ姿を、私は誰もいない教室の窓から見つめていた。胸がチクッと痛む。


スマホを開くと、美波のLINEのアイコンが、夏休みに2人で撮ったのであろう花火大会のツーショットに変わっていた。
陸様のアイコンも、美波が撮ったであろう笑顔の写真。
画面を見るだけで、スマホの角が胸に突き刺さったようにチクッとした。


夜、美波から電話がかかってくる。
「ねえ雫聞いて! 今日ね、陸くんと初めてキスしちゃった……っ!」
受話器の向こうでパニックになる私。
私は「えー!すごじゃん!」と声を張る。
だけど、私の頭の中には、若狭旅行のときの陸様のあの優しい声が響いていて、胸がちぎれるようにチクッとした。


「今週末のデート、どっちの服がいいと思う?」
放課後、ショッピングモールで美波の服選びに付き合う。
美波が試着室から出てくるたび、「陸くん、こういう可愛い系が好きって言ってたんだよね」と笑う。
陸様の好みを私より知っている美波。胸がチクッとした。


ある日、陸様が学校を欠席した。
心配でソワソワしていると、美波が「放課後、陸くんの家にお見舞い行ってくる!」と嬉しそうに荷物をまとめた。
彼女だから、看病に行ける。
私はただのクラスメイトだから、LINEの一通すら送れない。胸がチクッとした。


次の日、登校してきた陸様に、私はつい口を滑らせた。
「陸様、風邪大丈夫でしたか?」
陸様は一瞬、寂しそうな顔をして「……だから『様』って呼ぶなよ。なんか、美波と付き合ってからお前、遠くなったな」と言った。遠くしたのは私なのに。胸が、あの日より激しくチクッとした。


ゆきちゃんと春馬くん(陸様の友人)たちが、「みんなで遊びに行こう」と言い出した。
美波と陸様、他2組のカップルの中に、私は「数合わせ」として誘われた。
「雫もおいでよ!」と言われたけれど、私は「ごめん、塾があるから」と嘘をついた。また声が高くなっていたかもしれない。胸がチクッとした。


10月、文化祭の準備。
美波と陸様は、買い出し担当として2人で学校を出て行った。
残された私は、1人教室で段ボールをハサミで切る。手元が狂って少し指を切った。
指の痛みより、胸のチクッとする痛みのほうが、ずっと強かった。


文化祭当日。
美波がクラスの出し物で、陸様と撮ったチェキを嬉しそうにカバンに飾っていた。
猫耳をつけた陸様が、美波の頭を撫でて笑っている。
あの放課後、私にしてくれたみたいな優しい笑顔。
それは私だけの特別じゃなかった。胸がチクッとした。


【side陸】
美波は優しくて、可愛くて、本当にいい奴だ。
本当に好きだけど、たまに雫に目が行ってしまう。


学校の帰り道、突然の雨。
私は傘を忘れて、駅の雨宿りで立ち尽くしていた。
そこに、1本の大きな傘に入った陸様と美波が通りかかる。
「あ、雫! 入ってく?」と美波が言ったけど、陸様は美波の肩を抱き寄せていた。
「ううん、すぐ迎えが来るから!」と嘘をついて、私は雨の中を走った。胸がチクッとした。


「陸くんから、これ貰っちゃった!」
美波の誕生日の次の日、彼女の首元には小さなシルバーのネックレスが光っていた。
かつて佐奈がメルカリで売ったという話が頭をよぎる。
陸様が今度は報われて良かった。そう思うのに、胸がチクッとした。


放課後、ゆきと2人になったとき、ついに堪えきれなくなって涙がこぼれた。
「ゆき、私、最低だよ。美波の幸せを喜べないの……」
ゆきは何も言わずに私を抱きしめてくれた。
彼女たちの前では泣けないから。胸がチクッとした。


委員会の日。
陸様が「望月、これ次の議題のプリント」と手渡してきた。
指先が一瞬だけ触れ合う。
静電気みたいにバチッとした後、陸様は慌てて手を引いた。
「わりぃ」と呟く陸様の顔を見られなくて、下を向いた。胸がチクッとした。


11月、寒くなってきた。
美波が手編みのマフラーを陸様にプレゼントした。
陸様は「あったかい」と言って、毎日学校につけてくるようになった。
そのマフラーを見るたび、私の視界がチクチクと滲んだ。


「陸くん、地元の大学に行くって言ってた」
美波が嬉しそうに進路の話をする。
「私も同じところ受けるんだ!」
2人の未来はもう繋がっている。
私の入る隙間なんて、最初からどこにもない。胸がチクッとした。


街がイルミネーションで輝きだす。
美波はクリスマスのデートプランで頭がいっぱいだ。
「どこ行ったら陸くん喜ぶかな?」
幸せそうな親友の相談に乗るたび、私の心には小さな冷たい雪が降り積もり、胸がチクッとした。


「私はただのファンだから」
毎晩、鏡の前で自分に言い聞かせる。
そうしないと、明日学校で2人の姿を見たときに正気を保てないから。
恋とは、認めない。認めない。絶対に認めない。
そう強く願うほど、胸の奥の痛みは、もう「チクッ」なんて可愛いものじゃなくなっていた。