恋とは、認めません!

夏休みが始まってすぐのある日。私はゆきちゃんに駅前のカフェに呼び出されていた。
ゆきちゃんは席に着くなり、いつになく真剣な顔で私の両肩を掴んできた。
「ねえ雫、ちょっと聞いて。……陸の彼女の佐奈のことなんだけど、私、小学校のときの共通の友達から、とんでもない裏話聞いちゃった」
「え……? 佐奈さんの話?」
急なことに驚く私に、ゆきちゃんは声を潜めて、スマホの画面を見せてきた。
そこには、ある女の子のSNSのアカウントが表示されていた。
「これ、佐奈のアカウントなんだけどね。陸には教えてない、裏のアカウント。……これ見て」
画面をスクロールして目に入ってきたのは、信じられない投稿の数々だった。
『今日も他校の年上彼氏とドライブ〜』
『彼氏には「塾の夏期講習」って言ってあるから大丈夫(笑)。あいつ騙されやすくてウケる』
そこに写っていたのは、陸様ではない、茶髪でタトゥーが入った別の男の人の腕と、助手席で嬉しそうに笑う佐奈さんの姿だった。
投稿のひにちは、まさに陸様が美波と雨の日に相合い傘をしていた、あの梅雨の時期。
「佐奈さん、陸様がいるのに……浮気、してるの……?」
「浮気どころじゃないよ。これ、去年の秋くらいからずっとみたい。つまり、陸と付き合ってすぐの頃から、ずっと陸のことを『都合のいいキープ』にしてたってこと」
私の頭の中が、一気に真っ白になった。
私の大切な、大好きな、世界で一番優しい陸様が、そんな風に裏切られていたなんて。
「佐奈ってさ、小学校のときからそういう子だったんだよね」
ゆきちゃんは冷めた紅茶をすすりながら、苦々しい顔で話しを続けた。
「見た目はすっごい清楚系で、おとなしくて守ってあげたくなるようなタイプなんだけど、裏では男の人の心を転がすのが趣味っていうか……。陸は真っ直ぐでピュアだからさ、中学が離れてもずっと佐奈のことを一途に信じてたの。自分のバイト代とかお小遣い削って、佐奈の誕生日に高いネックレス買ったりしてさ。それなのに佐奈は、そのネックレスをメルカリで売って別の男とのデート費用にしてたんだって」
「そんなの……最低すぎるよ……!」
気づけば、私はテーブルを叩いて立ち上がりそうになっていた。
胸の奥から、経験したことのないような激しい怒りが湧き上がってくる。私の大好きな陸様を、傷つけていいわけがない。
「実はね、陸も薄々気づき始めてたみたい」
ゆきちゃんが私をなだめるように手を添える。
「最近、陸が佐奈に電話しても全然出ないし、LINEも既読無視ばっかりだったんだって。陸は『俺、何か悪いことしたかな』ってずっと悩んでて……。そんな時に、美波が毎日、自分のことだけを見て猛アタックしてくれたでしょ? 陸にとって、美波の真っ直ぐな存在が、どれだけ救いだったか」
あ……。だから陸様は、あの放課後の委員会で私に『男が彼女いるのに他の女子のことばっか考えるようになったら最低だと思うか?』って聞いてきたんだ。
あのアクシデントや、美波のアタックの裏で、陸様は1人でずっとボロボロに傷ついていたんだ。
「だからさ、雫。私は陸が違う人と付き合うの、大賛成なんだよね」
ゆきちゃんは真っ直ぐに私を見つめた。
「陸には、佐奈みたいな悪女と早く別れて、美波みたいに一途に愛してくれる子と幸せになってほしい。……雫も、美波の親友として、応援してあげられるよね?」
「う、うん……。もちろん、だよ……」
喉の奥が、カラカラに干からびていた。
陸様が佐奈さんと別れるのは、本当に良かったと思う。
美波が陸様を救ってくれたなら、これ以上のハッピーエンドはないはずだ。
でも、私の心の中の「チクッ」とした痛みは、いつの間にか、心臓を直接抉られるような激しい痛みに変わっていた。
陸様が幸せになるなら、それでいい……。
私はただのファン。恋なんかじゃない、絶対に認めない……。
そう自分に言い聞かせる私のスマホに、美波から1通のLINEが届いた。
『雫!!! 私、陸くんと付き合えることになったよ!!! 😭✨』
ついに、一番恐れていた瞬間がやってきてしまった。