放課後のあの「頭ポンポン」から数日。
私の心臓はまだ変な動きをしていたけれど、美波のアタックはさらにギアが上がっていた。
「陸くん! 今日ね、お弁当作りすぎちゃったから、陸くんの分もあるよ!」
お昼休み、美波が持ってきたのは、綺麗にラッピングされた2段のお弁当箱。
「え、マジで? ハンバーグ入ってんじゃん、美味そう」
陸様が嬉しそうに唐揚げを口に運ぶ。
その横で、私は自分のツナマヨおにぎりを静かに噛み締めていた。
美波の「作りすぎちゃった」が、昨日の夜から必死に仕込んでいたものだって、私は知っている。
「あー、次の英語、教科書忘れた……」
陸様が困ったように頭をかいた瞬間、美波が自分の教科書をサッと差し出した。
「私、隣のクラスの子に借りてくるから、陸くんこれ使って!」
「サンキュ、美波。助かる」
戻ってきた美波の教科書の端っこには、小さく『お礼に今度アイスおごって』と陸様の文字で落書きがしてあった。
それを見せ合ってキャッキャと喜ぶ美波を見て、私の胸がまたチクっと痛んだ。
その日は梅雨の土砂降りだった。
「陸くん、傘ないの? 私の入ってく?」
駅前で、美波が小さな折りたたみ傘を広げて陸様に寄り添う。
「わりぃ、狭くないか?」
「全然! もっとこっち寄って?」
濡れる陸様の肩を見て、美波が自分の体を外側に投げ出す。
後ろを歩いていた私は、自分の大きなビニール傘の中で、息を吸うことすら苦しくなっていた。
期末テスト前、美波から「陸くんの家で勉強会することになった!」と報告を受けた。
「雫も来る?」って陸様から聞かれたけど、美波の目は『2人きりにさせて』って言っていた。
「私、家で集中したいから頑張ってね!」
そう言って断った日の夜。
美波から『陸くんの部屋、すっごいいい匂いした!』とLINEが来て、私はスマホを裏返してベッドに突っ伏した。
テストが明けた日。教室の後ろで話している2人の声が聞こえた。
「なぁ、美波。お前、今回の数学何点だった?」
「えっ……今、美波って呼んだ!?」
これまでは「お前」とか「竹内」だったのに、自然と名前で呼ばれた美波が顔を真っ赤にする。
陸様もちょっと照れくさそうに首の後ろをかいていた。
2人の距離が、確実に縮まっている。
「陸くん、これ、来月の花火大会のチケットなんだけど……一緒に行かない?」
美波が差し出したのは、地元でも有名な有料観覧席のペアチケット。
「え、これ、めちゃくちゃ倍率高いやつじゃん。いいの?」
「陸くんと行きたいから、頑張って取ったんだもん」
美波の真っ直ぐな瞳に、陸様が少し真剣な表情を見せた。
【side陸】
……最近、竹内――美波が、ずっと俺の隣にいる。
あいつはいつも俺を見ていて、俺のために一生懸命で、素直に「好き」をぶつけてくる。
他校の彼女の佐奈とは、最近連絡すらまともに取れていない。
ぶっちゃけ、心が離れかけていた。
そんな時に、こんなに真っ直ぐ俺を求めてくれる美波のことを、意識しないわけがなかった。
夏休み前最後の1週間。
美波のカバンには、新しくストリート系のクマのキーホルダーが揺れていた。
そして、陸様のスポーツバッグのジッパーにも、全く同じ、色違いのクマがついていた。
「あ、お揃いだね!」と声をかけるクラスメイトたちに、美波は嬉しそうに微笑み、陸様は「まぁな」と否定しなかった。
私の「推し活」の限界が、もうすぐそこまで来ていた。
放課後、また委員会で2人きりになった時のこと。
「望月さ……」
陸様が、ふと外を見ながら呟いた。
「男が、彼女いるのに、他の女子のことばっか考えるようになったら……最低だと思うか?」
その質問が、美波のことだってすぐにわかった。
「……最低じゃないですよ。ちゃんと、その子のことを見てあげてる証拠です」
私は、世界一物分かりの良いファンのフリをして、自分の恋心を完全に殺す言葉を口にした。
「雫、私、今日頑張ってくるね!!」
夏休みの終業式の日、美波は私にそう言って、気合いの入った笑顔で帰っていった。
今夜はあの花火大会。美波が、陸様に告白する日だ。
「頑張ってね、美波なら絶対に大丈夫」
夕方、部屋の窓から遠くで上がる花火の音を聞きながら、私はただ、夜空を見上げていた。
恋とは認めない。認めちゃったら、この胸の痛みに耐えられなくなるから。
私の心臓はまだ変な動きをしていたけれど、美波のアタックはさらにギアが上がっていた。
「陸くん! 今日ね、お弁当作りすぎちゃったから、陸くんの分もあるよ!」
お昼休み、美波が持ってきたのは、綺麗にラッピングされた2段のお弁当箱。
「え、マジで? ハンバーグ入ってんじゃん、美味そう」
陸様が嬉しそうに唐揚げを口に運ぶ。
その横で、私は自分のツナマヨおにぎりを静かに噛み締めていた。
美波の「作りすぎちゃった」が、昨日の夜から必死に仕込んでいたものだって、私は知っている。
「あー、次の英語、教科書忘れた……」
陸様が困ったように頭をかいた瞬間、美波が自分の教科書をサッと差し出した。
「私、隣のクラスの子に借りてくるから、陸くんこれ使って!」
「サンキュ、美波。助かる」
戻ってきた美波の教科書の端っこには、小さく『お礼に今度アイスおごって』と陸様の文字で落書きがしてあった。
それを見せ合ってキャッキャと喜ぶ美波を見て、私の胸がまたチクっと痛んだ。
その日は梅雨の土砂降りだった。
「陸くん、傘ないの? 私の入ってく?」
駅前で、美波が小さな折りたたみ傘を広げて陸様に寄り添う。
「わりぃ、狭くないか?」
「全然! もっとこっち寄って?」
濡れる陸様の肩を見て、美波が自分の体を外側に投げ出す。
後ろを歩いていた私は、自分の大きなビニール傘の中で、息を吸うことすら苦しくなっていた。
期末テスト前、美波から「陸くんの家で勉強会することになった!」と報告を受けた。
「雫も来る?」って陸様から聞かれたけど、美波の目は『2人きりにさせて』って言っていた。
「私、家で集中したいから頑張ってね!」
そう言って断った日の夜。
美波から『陸くんの部屋、すっごいいい匂いした!』とLINEが来て、私はスマホを裏返してベッドに突っ伏した。
テストが明けた日。教室の後ろで話している2人の声が聞こえた。
「なぁ、美波。お前、今回の数学何点だった?」
「えっ……今、美波って呼んだ!?」
これまでは「お前」とか「竹内」だったのに、自然と名前で呼ばれた美波が顔を真っ赤にする。
陸様もちょっと照れくさそうに首の後ろをかいていた。
2人の距離が、確実に縮まっている。
「陸くん、これ、来月の花火大会のチケットなんだけど……一緒に行かない?」
美波が差し出したのは、地元でも有名な有料観覧席のペアチケット。
「え、これ、めちゃくちゃ倍率高いやつじゃん。いいの?」
「陸くんと行きたいから、頑張って取ったんだもん」
美波の真っ直ぐな瞳に、陸様が少し真剣な表情を見せた。
【side陸】
……最近、竹内――美波が、ずっと俺の隣にいる。
あいつはいつも俺を見ていて、俺のために一生懸命で、素直に「好き」をぶつけてくる。
他校の彼女の佐奈とは、最近連絡すらまともに取れていない。
ぶっちゃけ、心が離れかけていた。
そんな時に、こんなに真っ直ぐ俺を求めてくれる美波のことを、意識しないわけがなかった。
夏休み前最後の1週間。
美波のカバンには、新しくストリート系のクマのキーホルダーが揺れていた。
そして、陸様のスポーツバッグのジッパーにも、全く同じ、色違いのクマがついていた。
「あ、お揃いだね!」と声をかけるクラスメイトたちに、美波は嬉しそうに微笑み、陸様は「まぁな」と否定しなかった。
私の「推し活」の限界が、もうすぐそこまで来ていた。
放課後、また委員会で2人きりになった時のこと。
「望月さ……」
陸様が、ふと外を見ながら呟いた。
「男が、彼女いるのに、他の女子のことばっか考えるようになったら……最低だと思うか?」
その質問が、美波のことだってすぐにわかった。
「……最低じゃないですよ。ちゃんと、その子のことを見てあげてる証拠です」
私は、世界一物分かりの良いファンのフリをして、自分の恋心を完全に殺す言葉を口にした。
「雫、私、今日頑張ってくるね!!」
夏休みの終業式の日、美波は私にそう言って、気合いの入った笑顔で帰っていった。
今夜はあの花火大会。美波が、陸様に告白する日だ。
「頑張ってね、美波なら絶対に大丈夫」
夕方、部屋の窓から遠くで上がる花火の音を聞きながら、私はただ、夜空を見上げていた。
恋とは認めない。認めちゃったら、この胸の痛みに耐えられなくなるから。



