私は完全に固まっていた。
頭の中が真っ白だった。
さっきまで私はただ怖かった。
知らない人たちが殴り合いをしている。
それだけで十分に恐ろしかった。
けれど今は違う。
恐怖よりも衝撃の方が大きかった。
「総長。」
その言葉。
そしてみんなが見ている先。
私は恐る恐る視線を向けた。
そして。
見つけた。
人混みの中心。
何人もの男たちに囲まれながら立っている人物。
上着の袖は破れていて、拳には血が付いている。
それでも、見間違えるはずがなかった。
翼くんだった。
道明寺翼くんだった。
私が毎日一緒に過ごしていた、ぶっきらぼうで、少し意地悪で、だけど優しい翼くんだった。
その翼くんが、まるで別人のような目をして立っている。
「そ……うちょう……?」
私は小さく呟いた。
意味が分からない。
理解が追いつかない。
翼くんが総長?
黒龍の?
あの有名な暴走族の?
そんなこと考えたこともなかった。
空いた口が塞がらないとはこのことだろうか。
そして、翼くんと目が合う。
その瞬間、翼くんの表情がわずかに歪んだ。
まるで、一番知られたくなかった秘密を見られてしまった人みたいに。
