【新作】財閥令嬢の私が、三つ子の不良御曹司に世界を教えられるなんて

僕は助けを求めるように翼を見る。

総長。

どうにかしてください。

すると。

翼は一秒ほど考えたあと。

真顔で言った。

「夜の散歩。」

僕は思った。

コイツバカなのかと。

あるいは翼も六花と同じで天然記念物なのか、と。

とにかくびっくりするくらい雑だった。

でも、もう後戻りはできない。

「そうそう。」

蓮も乗っかる。

「夜風が気持ちいいから。」

「散歩。」

俺も言った。

「三人で。」

六花はその大きな目でぱちぱちと瞬きをする。

数秒。

沈黙。

僕は心臓が痛かった。

絶対怪しい。

怪しすぎる。

深夜に。

三人で。

塀を乗り越えて。

散歩。

意味が分からない。

僕なら通報する。

ところが。

六花は。

「そうなのね。」

納得した。

納得してしまった。

僕たちは三人同時に固まる。

六花はさらに続ける。

「確かに今日は涼しいものね。」

「そ、そう。」

「気をつけてね。」

「うん。」

「行ってらっしゃい。」

「行ってきます。」

そして。

六花は微笑んだ。

僕たちは、何事もなかったかのように塀を越えた。

そして着地した瞬間。

三人同時に全力疾走した。

「急げ!」

「バレる前に!」

「いや今のはバレてねぇだろ」

近くの駐輪場まで小走りで向かう。

心臓がまだうるさい。

蓮が息を吐いた。

「やばかった……。」

「マジで終わったと思った。」

僕も頷く。

翼も珍しく疲れた顔をしていた。

そして。

しばらく沈黙したあと。

蓮がぽつりと言った。

「六花がバカで助かった。」

「ほんとだな。」

僕は即答した。

「普通気付くよな。」

「絶対気付く。」

「塀乗り越えて散歩は無理がある。」

「うん。」

三人で頷く。

だが、次の瞬間。

俺はふと思った。

「でもさ。」

「ん?」

「六花って。」

「うん。」

「俺たちが言ったこと、疑わないよね。」

翼が口元を緩めた。

「そうだな。」

「なんか。」

僕は夜空を見上げた。

「ちょっと心配になる。」

変な人に騙されそう。

たぶん。

すごく簡単に。

だから、黒龍の副総長としてじゃなく。

道明寺碧として、少しだけ思った。

僕たちがちゃんと守ってやらないとダメなのかもしれないな、と。

【side 碧 fin 】