まるで。
自分の意思を持たない人形を見るような目だった。
六花は何も言い返せなかった。
事実だったからだ。
父の命令で来た。
結婚相手を探しに来た。
否定できない。
翼は再び本へ視線を戻す。
「俺ならそんな人生ごめんだけどな」
その言葉が妙に胸へ刺さった。
六花はその場を離れた。
腹が立った。
悲しかった。
悔しかった。
でも一番苦しかったのは翼の言葉が正しいと思ってしまったことだった。
その日の午後。
六花は一人で庭園を歩いていた。
すると使用人たちの声が聞こえてくる。
道明寺家で働く若いメイドたちだった。
本来なら立ち去るべきだった。
しかし偶然聞こえてしまった。
「いいなぁ六花様」
六花は足を止める。
「西園寺家に生まれたってだけで、何の努力もしないで翼様たちの誰かと結婚できるなんて」
クスクスと笑い声が上がる。
「ほんとよね」
別のメイドが続けた。
「性格まで猫かぶっちゃって」
「どうせ普段は使用人を奴隷みたいに使ってるんでしょう?」
「そうそう」
「西園寺家では一般庶民のことを『下賤な平民』って呼ぶらしいわよ」
笑い声。
六花は立ち尽くした。
否定したかった。
私はそんなこと思っていない。
使用人を見下したことなんてない。
奴隷だと思ったこともない。
でも否定できない部分もあった。
佐々木は確かに言っていた。
下賤な平民。
玲央も言っていた。
平民。
紫苑も似たようなことを言っていた。
六花自身は思っていなくても。
西園寺家がそう見られているのは事実だった。
メイドたちは六花が近くにいることに気づいていない。
だから本音だった。
六花は静かにその場を離れた。
胸が苦しい。
道明寺家へ来てからずっとそうだった。
翼には馬鹿にされる。
蓮には興味を持たれない。
碧は何を考えているか分からない。
使用人たちには嫌われている。
私は何をしているのだろう。
父の命令で。
結婚相手を探して。
好かれようとして。
嫌われて。
笑われて。
気付けば目の奥が熱くなっていた。
けれど泣いてはいけない。
泣いたところで誰も助けてくれない。
そう思いながら歩く六花の姿を、
少し離れた廊下の陰から、
たまたま蓮が見ていたことには、気づかなかった。
自分の意思を持たない人形を見るような目だった。
六花は何も言い返せなかった。
事実だったからだ。
父の命令で来た。
結婚相手を探しに来た。
否定できない。
翼は再び本へ視線を戻す。
「俺ならそんな人生ごめんだけどな」
その言葉が妙に胸へ刺さった。
六花はその場を離れた。
腹が立った。
悲しかった。
悔しかった。
でも一番苦しかったのは翼の言葉が正しいと思ってしまったことだった。
その日の午後。
六花は一人で庭園を歩いていた。
すると使用人たちの声が聞こえてくる。
道明寺家で働く若いメイドたちだった。
本来なら立ち去るべきだった。
しかし偶然聞こえてしまった。
「いいなぁ六花様」
六花は足を止める。
「西園寺家に生まれたってだけで、何の努力もしないで翼様たちの誰かと結婚できるなんて」
クスクスと笑い声が上がる。
「ほんとよね」
別のメイドが続けた。
「性格まで猫かぶっちゃって」
「どうせ普段は使用人を奴隷みたいに使ってるんでしょう?」
「そうそう」
「西園寺家では一般庶民のことを『下賤な平民』って呼ぶらしいわよ」
笑い声。
六花は立ち尽くした。
否定したかった。
私はそんなこと思っていない。
使用人を見下したことなんてない。
奴隷だと思ったこともない。
でも否定できない部分もあった。
佐々木は確かに言っていた。
下賤な平民。
玲央も言っていた。
平民。
紫苑も似たようなことを言っていた。
六花自身は思っていなくても。
西園寺家がそう見られているのは事実だった。
メイドたちは六花が近くにいることに気づいていない。
だから本音だった。
六花は静かにその場を離れた。
胸が苦しい。
道明寺家へ来てからずっとそうだった。
翼には馬鹿にされる。
蓮には興味を持たれない。
碧は何を考えているか分からない。
使用人たちには嫌われている。
私は何をしているのだろう。
父の命令で。
結婚相手を探して。
好かれようとして。
嫌われて。
笑われて。
気付けば目の奥が熱くなっていた。
けれど泣いてはいけない。
泣いたところで誰も助けてくれない。
そう思いながら歩く六花の姿を、
少し離れた廊下の陰から、
たまたま蓮が見ていたことには、気づかなかった。

