春は眩しくて、届かない



スマホが小さく震える。


画面を見ると、
りのんからだった。



『先生長かったー!!』
『ひなもう帰ってる?』



その文字を見た瞬間、
胸の奥がちくりと痛む。


陽奈は立ち止まった。



——りのん。



親友。
一番大事で、
一番隣にいてくれる人。


なのに今、
自分はりのんに言っていない時間を抱えている。


柏木くんとふたりでいた時間。
シュークリームを食べながら笑った時間。


それを隠したいと思ってしまった。


そのことが、
少しだけ苦しかった。


陽奈はしばらく画面を見つめてから、
いつも通りを装うみたいに返信を打つ。



『もう帰ってるよー!』



『先生おつかれさま笑』



送信ボタンを押したあと、
陽奈は小さく息を吐く。


秋の空は、
もう薄暗くなり始めていた。


私たちの“いつも”も、
少しずつ形を変え始めていることに。



まだ、誰も気づいていなかった。