春は眩しくて、届かない




「……お礼、ありがとね」



そう言うと、
柏木くんは少しだけ肩をすくめる。



「別に」



「でもほんと助かったならよかった」



笑うと、
柏木くんは一瞬だけこっちを見たあと、
小さく笑った。



「鈴野、ノートわかりやすかったし」



その何気ない一言だけで、
胸がまた静かにうるさくなる。



「……え、そこ褒められると思わなかった」



「ちゃんと書いてる感じした」



「“感じ”ってなに」



ふっと笑いがこぼれる。


秋の風が吹いて、
木の葉がかさりと揺れた。



「じゃ、そろそろ帰るか」



柏木くんが立ち上がる。


少し遅れて立ち上がり、
制服についた落ち葉を払った。


並んで少しだけ歩いて、
分かれ道の前で足が止まる。



「じゃあね、柏木くん」



「ああ」



少しだけ間が空く。


その沈黙すら、
なぜか嫌じゃなかった。


小さく笑って、
いつも通りみたいに手を振る。



「またあした」



すると柏木くんは、
ほんの少しだけ目を細めて。



「……ん、また明日」



その声が、
秋の夕暮れの中でやけにやさしく聞こえた。