春は眩しくて、届かない



自然に言われたその言葉。


夏の夜風が吹くたび、隣を歩く柏木くんの存在を変に意識してしまう。


そのあとも、他愛ない話をした。
図書館の自習室、冷房効きすぎだよね、とか。
陽奈なら絶対途中で飽きてる、なんて話とか。


くだらない会話なのに、不思議と時間があっという間だった。


気づけば、見慣れた家の前まで来ていた。



「……あ」



「ここ、わたしの家です」



立ち止まり、小さく頷いた。



「ん、ちゃんと着いたな」



その言い方が少しだけおかしくて、小さく笑う。



「……本当にありがとう」



「別に」



「今度、お礼させて」



そう言うと、柏木くんは少しだけ目を細めた。



「気にしなくていい」



それから、少しだけ真面目な声になる。



「これから1人で、この時間になるならもっと早く帰れよ」



「……うん」



「水瀬、集中すると時間忘れそうだし」



「それは……ちょっとあるかも」



困ったみたいに笑うと、柏木くんも少しだけ笑った。