春は眩しくて、届かない



朝の風が、
ふたりの髪を揺らした。


それから、
湊は少しだけ視線を逸らして。



「……嫌だった?」



その聞き方が、
ちょっと不安そうで。



「嫌じゃない!」



反射みたいに答える。


湊くんが少し目を丸くする。


顔を赤くしながら、
小さく続けた。



「びっくりしただけ……」



その瞬間。


安心したみたいな、
やわらかい笑い方。



「そっか」



それだけで、
胸はまたあたたかくなる。


湊くん少しだけ視線を逸らして、
でもちゃんと手を差し出した。



「……手、繋がない?」



一瞬、
時間が止まったみたいだった。


ぱちぱち瞬きをして、
それから急に顔が熱くなる。



「っ……」



「嫌だった?」



「ち、違……!」



慌てて否定した声が裏返る。


吹き出すみたいに笑った。



「よかった」



わたしは恥ずかしくて、
俯いたままそっと手を伸ばす。


指先が触れた瞬間。


ぎゅ、
って優しく握られた。



「……っ」



「りのん手ちっちゃいね」



「うるさい……」



でも、
離したくないって思った。



「やばいな」



「なにが」



「かわいすぎて好きすぎるかも」



朝の住宅街。
桜が舞う道。


まだ少しぎこちない恋人同士は、
繋いだ手を何回も意識しながら、
ゆっくり学校へ向かった。