春は眩しくて、届かない



その帰り道。


空はもう薄暗くなっていて、
白いものがひとつ、
静かに落ちてくる。



「……雪」



りのんが空を見上げる。


今年の初雪だった。


小さな雪が制服の袖に触れて、
すぐ消えていく。



「寒っ」



りのんが肩をすくめると、
湊が小さく笑う。



「送る」



「え、大丈夫だよ?」



「いや、
この時間に女の子ひとりで帰らせたら鈴野に怒られる」



その名前に、
水瀬は少しだけ笑った。



「確かに」



並んで歩く帰り道。


雪はまだ弱くて、
街灯の光の中を静かに漂っていた。


途中、
りのんの髪に雪が乗る。


それを見て、
ふっと目を細めた。



「……水瀬」



「ん?」



「風邪ひくなよ」



それだけなのに、
胸の奥が妙にあたたかくなる。


家の前に着くころには、
雪は少しだけ強くなっていた。



「じゃ、また明日」



俺は少しだけ迷ってから、
静かに笑った。



「……またな」



雪の降る夜。


りのんは玄関の灯りの前で、
胸の奥に残る熱を、
まだ名前にできないまま抱えていた。