「この前さ」
「ん?」
「……ありがとな」
水瀬が目をぱちっと瞬く。
「え?」
「母親と、 ちゃんと話せた」
短く言うつもりだったのに、 声が少しだけ低くなる。
「水瀬が言ってたこと、 結構残ってて」
教室のざわめきが遠く聞こえる。
湊は視線を逸らしながら続ける。
「まだ全部うまくはいってねぇけど」
「でも、 前よりはちゃんと向き合えそう」
その言葉に、 水瀬はふわっと笑った。
「……そっか」
その笑顔を見ると、 胸の奥が少しだけ軽くなる。
「よかった」
たったそれだけなのに、 不思議なくらい救われる声だった。
ふたりの間に静かに落ちていた。

