「……水瀬ってさ」
「え?」
「ほんと変なとこで踏み込んでくるよな」
りのんは目を瞬く。
「ごめんね、だめだった?」
「いや」
湊は視線を落としたまま、 小さく息を吐く。
「……母親」
ぽつりと落ちる声。
「ちょっと、うまくいってねぇだけ」
わたしは黙って聞く。
“だけ”で済む顔じゃないと思ったけど、 言わなかった。
「家、出てんのも」
「そのせい」
夕方の光が、 柏木くんの横顔を長く照らしている。
わたしはゆっくり隣の段に座った。
近すぎない距離。
「そっか」
それだけ返す。
慰めるでもなく、 無理に励ますでもなく。
ただ、 聞いている。
その静けさが、 湊には少しだけ救いだった。

