「……あれ、柏木くん?」
声がして顔を上げる。
水瀬が少し驚いた顔で立っていた。
風で髪が揺れる。
その瞬間、 また心臓が変な音を立てた。
「悪い」
「鈴野に無理言って、来させてもらった」
水瀬が少し困ったみたいに笑う。
「え、なにそれ」
そう言いながら、 俺の隣に座った。
話そうとした、その時。
スマホが鳴る。
画面を見る。
——母親。
呼吸が止まりそうになる。
水瀬が画面を覗き込んで、 小さく言った。
「……出ないの?」
一年ぶりだった。
母親と揉めて家を出てから、 まともに話してない。
俺はしばらく画面を見つめて、 それから通話ボタンを押した。
「もしもし」
『あんた、一年間どこで暮らしてるつもり?』
声を聞いた瞬間、 胸の奥がぐちゃっとなる。
『学校にはなんて言ってるの?』
『連絡くらいしなさいよ』
今さら。
今さら急に、 心配するみたいな声出しやがって。
「……あんたに言う筋合いねぇだろ」
低く吐き捨てて、 そのまま通話を切った。
中庭に静けさが落ちる。
やば。
最悪。
水瀬は少し驚いた顔をしていた。
俺は目を逸らす。

