鈴野は少し笑いながら返事をして、 そのまま真っ直ぐこっちへ歩いてきた。
一瞬だけ、 教室の空気が遠くなる。
鈴野は俺の机の前で止まる。
そして、 まっすぐ俺を見た。
「柏木くん」
「……ん」
鈴野は笑った。
少しだけ無理してるって分かる笑顔。
でも、 ちゃんと前を向こうとしてる顔だった。
「りのんのこと、任せます」
その瞬間、 頭が真っ白になる。
「りのん、気ぃ使っちゃうくらい優しすぎるから」
「ちゃんと優しくしてあげてほしいです」
冗談っぽく言ってるのに、 言葉は妙にまっすぐだった。
俺はすぐ返事ができなかった。
鈴野にそんなことを言わせてる時点で、 自分はたぶんかなり情けない。
でも鈴野は、 そんな空気を壊すみたいに笑う。
「あと!聞きたいことあったら何でも聞いて!」
「……何でも?」
「応援団長なので!」
意味分かんねぇ。
でも、 その明るさに少し救われる。
俺は小さく息を吐いた。
「……ありがと」
そう言うと、 鈴野は少しだけ目を細めた。
「その代わり」
「りのん泣かせたら許さないからね!」
「怖ぇよ」
「ほんとに!」
鈴野は笑う。
ちゃんと、 いつもの鈴野みたいに。
でも。
その笑顔の奥にある痛みを、 見えないふりできるほど鈍くはなかった。
だから余計に思う。

