氷の部長の大臀筋(お尻)を拝んでいただけなのに、バレて囲い込まれました

 無機質なオフィスの階段にカツンと革靴の音が響いた。
 背後から突き刺さる不埒な視線を、常盤は仕立ての良いネイビーのスラックス越しに受け止めていた。

 まだ見ているな。

 水野和葉が自分の特定の部位に対して異常なまでの執着を見せ始めたのは、数週間前のことだ。
 初めは気のせいかと思ったが、自分が前を歩くたび、あるいは書類を拾おうと屈むたび、彼女の視線が固定される。
 どこを見ているのかなんて、とうにお見通しだった。

 常盤はわざと階段を一段ずつゆっくりと上る。
 スラックスの生地が張り、大臀筋の動きが明瞭に伝わるように。
 
 背中で息を呑む気配を感じた常盤は、氷の仮面の下で口元が歪みそうになるのを必死に抑えた。

 いい加減、お仕置きの時間を入れなければ怪しまれるだろう。
 常盤は踊り場でピタリと足を止め、振り返った。

「昼イチで使うと言っただろう」
「すみません、後でと思っていたらギリギリに」
 予想通り、和葉は慌てて取り繕った。
 
「まったくおまえはいつも」と、形ばかりのお小言を口にする。
 色素の薄い瞳で彼女を正面から見据えると、和葉はまるで叱られた子犬のように身を縮めた。

 歩き出した瞬間、背中にビシビシと突き刺さる熱視線。
 今まさにネイビーのシルエットを必死に目に焼き付けているのだろう。

 よく見ておくといい。

 いつまで隠れて盗み見ているつもりか知らないが、外堀は埋まりつつある。
 近いうちに、その不埒な視線ごと逃げ場のない腕の中に閉じ込めてやる。

 赤くなっているその耳も、白いうなじに映える後れ毛も、すべて俺のモノだ。
 おまえがうちの部に配属された日から、俺はずっと見つめているのだから。

 毎日のジョギングも効果はあったようだ。
 オーダーしたこのスーツたちも。

 さぁ、早く俺に堕ちろ。
 常盤の唇が愉悦に満ちた弧を描いていることを、和葉はまだ知らない――。

  END