霧に包まれた道の駅

『というわけで、次回の撮影は天庄川道の駅という今注目の心霊スポットにする』

 オカルト研究会の部長が鼻息荒く宣言する。

『この場所は、不定期で夜に霧が出て、人命を奪うという恐ろしい場所だ。噂では魔物が出てくるとか、悪霊の棲家とか言われている。必ず撮影して視聴者を釘付けにしてやろう。その為にカメラ類を増やす』

 多数の撮影機材で場所をカバーして最適な映像を逃さないようにする。

『我々オカルト研究会としては、防御をしながら撮影するという、かつてないほどの危険と戦わねばならない。侮らないよう神社のお守りを携帯していくのを必須とする』

 今回は強敵である。

『部長! 神社のお守りを持って行くと悪霊が出てこないのではないですか?』

 確かにお守りを持って行く心霊探査の人々がいる。本来、心霊を撮影するならお守りなんて持って行ってはいけない。部長は話題をさりげなく逸らすことに尽力する。

『機材も多い。そこでポーター(機材の荷物持ち)として二年生の西之原義孝(にしのはらよしたか)君と、彼の妹の一年生である由愛(ゆあい)ちゃんが同行する。由愛ちゃんがとても可愛いからと言って手を出すのは禁止だ』





「「ほぉぉ~~」」

『由愛ちゃんだ~、噂の一年の美少女!』
『近くで見ると可愛い~』
『あ、こっち見た、ごめん俺に惚れないでね由愛たん』

 ヨシタカは思った。由愛が人気者という事は知っていたが、毎回、こんな感じで男たちに狙われる。お兄ちゃんとしては妹を守らなければならない。まごう事なきシスコンである。

「えっと、部長との賭けに負けたことで強制収容されました。宜しくお願いします」

 この男、西之原義孝は異世界に転移した経験を持つ元勇者パーティの一員だった。主に付与魔法を使用してポーターを兼ねながら実績を積み、聖女である幼馴染と恋人同士になった勝ち組であった。そして魔王討伐後、現代日本に戻されたわけだが、女神から()()()()()()()()()()()という条件が出されている。日本では基本、魔法が使用できない世界になっているからだ。

 兄ヨシタカの挨拶に合わせて由愛も挨拶をする。

「お兄ちゃんと一緒に行動しますね! 由愛です。お手柔らかにお願い致します」

 常に兄と一緒にいれば問題は起きないので、由愛も予めちゃっかり釘を刺しておく。

 この娘、西之原由愛もまた兄と共に異世界転移を経験している。元勇者パーティの魔法使いで火力は勇者を超える。魔物に襲われる村人たちの要請で助っ人として魔法を使うが、あまりにも凄まじいので人間側にすら恐れられてしまったという苦渋を飲まされたことがある。幼児体型でとても可愛い外見で男子たちに庇護欲を掻き立てられている。



『よし、後は各自適当に自己紹介して仲良くやってくれ。彼らは入部まではしないので、その日だけの客人扱いだ。みんな頼むぞ』

「「はいっ」」

 女の子が少ないオカルト研究会において、一年生の美少女を代表する由愛が参加するのは異例であった。男性陣の興奮もひとしおである。

『決行は金曜日の夜! 放課後に集まって電車を乗り継いで移動する』

 テスト期間が終わる日なので午前中までが学校だ。

『夕方に早く着けば釣りもできるぞ』

 部長は視聴者数の増加を狙って広告費の収入を期待していた。
 鼻息が荒い。

 ◇

「お兄ちゃん、ハイキングみたいで楽しみだわ」

「とはいえ、なぁ由愛、悪霊と言ったら死霊の代表格のリッチかもしれん。死霊リッチが出てきたら触れると即死、魔法も効かないから俺と由愛では相性が悪いな。万が一ということがあるかもしれん」

「なら瑞葉(みずは)ねえちゃんを誘ってみたらどうかしら?」

「いや実は今喧嘩中なんだよ」

「どうして?」

「キスしようとしたらビンタくらってしまった。それ以来、口をきいてくれないんだよ」

「キ、キス! 妹の前で何てことを言うんですか! お兄ちゃん」

 由愛はブラコンだった。しかも筋金入りの。

「いや可愛く俺の事を好きだって言うからさ、久しぶりにドキマギしちゃってさ、つい」

 そんなんだったら私に言ってくれればいいじゃん! いつでも私にだったらキス出来るのに! と声に出しそうになり危ないと口を(つぐ)んだ由愛。

「それじゃ聖女の力は期待できないわね。ハル姉さんはどうかしら?」

「ハルちゃんを連れて行ったら渓流神マナちゃんも帯同するだろ? 一帯を浄化しかねん。心霊スポットとしての価値が失われてしまい、撮影する間もなく終わってしまうだろうし……」

「そっか……ハル姉さんもハイキングとか好きそうなんだけどね」

「聡や幹夫も聖魔法は使えないしなぁ」

「こんなタイミングで瑞葉ねえちゃんと喧嘩してるだなんて運が悪いわね」

「やっぱ神社のお守りを持って行くかな」

「ハル姉さんが怒るわよ。女神(ハル)の勇者パーティが神社のお守り持ってくの? って」

「威力が弱いけど聖魔法の詠唱もオカ研の連中にバレないように日本らしく唱えないとなぁ」

 道の駅に出るのが死霊リッチだと想定している二人である。
 義孝は一応、浄化や回復の聖魔法を使えた。

 ◇

 当日。天庄川の道の駅は濃霧に包まれていた。

「なんだよ! 死霊リッチじゃなくて、ただのゴブリンじゃねーか!」

「お兄ちゃん、ダメ! 普通に魔法使っちゃダメ! 日本風の詠唱をして!」

「おっとっと、分かった」

 義孝は無詠唱魔法の使い手である。しかし、そのまま魔法をぶっ放してしまうとオカ研の連中にバレかねないし、周囲の人達にも万が一バレようものなら普通の生活が出来なくなってしまう。

 それゆえ、何かがバレても言い訳が効くように日本風の詠唱を工夫してきた。



「オン! アボキャ ベイロシャノウ マカボダラ マニ ハンドマ ジンバラ ハラバリタヤ ウン!」



「「?」」

『真言密教?』

『光明真言じゃねーか』

『和歌山県の高野山か!』

『世界遺産おめでとう~』

『裏高野かもしれん』



「もういっちょ。オン! アボキャ ベイロシャノウ マカボダラ マニ ハンドマ ジンバラ ハラバリタヤ ウン! 不動明王の業火(ごうか)よ、亡者(もうじゃ)どもを焼き尽くし、闇へ送り返したまえ、願わくばぁ~~。オン アビラウンケン ビサンマエイ ソワカ! 拡散エクスプロージョン!!」


 どどーーーーん ドーーーン どどどどーーーーーーーーん


(さすがオカ研、よく光明真言って分かったなぁ。これで悪霊が退散したってのも納得できるし世間にも通じるだろ)

『おおー、すげぇーーー! 光明真言スゲェェェェバネェェェ』

『圧倒的だな真言密教』

『高野山バンザイ!』

『さすが世界遺産っ』

『おい義孝、まさか孔雀明王の生まれ変わりか?』



『んん? なぜ不動明王火界呪が混じってるんだ』


(コマけーことはいいんだよ部長)←ヨシタカ


 ◇


 ヨシタカの魔法の打ち漏らしのゴブリンが部長に迫る。

「あ、部長さんっ、危ない! 天空を駆け抜け、インドラの矢! インダラヤ・ソワカ! ファイヤーボール!」

 すると由愛の手から火の玉が一直線にゴブリンめがけて走り、ぶち当たったところで相手は消滅した。

『ええっ! 由愛ちゃんまで』

帝釈天(たいしゃくてん)の真言か』

恵比寿天(えびすてん)バンザイ』

『由愛ちゃん、まるで高僧の阿闍梨(あじゃり)クラスじゃないか!』

「「高野山ってやっぱりすごかった!」」


 残念ながら、義孝を超える火力を誇る由愛の出番はそんなになかった。


 ◇

「お兄ちゃん、ゴブリン相手にエクスプロージョンはオーバーキルよ。周辺まで壊滅してたもん」

 ゴブリン(よう)生命体を駆逐した西之原義孝は、腕に抱き着く由愛を伴って帰宅していった。もちろん彼らは女神ハルの直属の配下であり、高野山とは無関係である。

 オカ研のメンバーは、無事に魔物ゴブリンの撮影に成功し、公開映像はおおいにバズったという。
 広告費もウハウハということで資金の潤ったオカ研では焼肉の晩餐会となった模様。

 ほぼ同時に闇の中からアラフィフの男性と二十歳前後の女子二人が現実世界に戻ってきた。

 奇跡の生還だとTV、週刊誌などで取り上げられた。
 また真言密教はやはり凄いということで高野山にも人々が殺到したという。

 そして、時は流れる。

 ◇

【お蕎麦屋さん】

 お昼時

「こんにちは~、お久しぶりです」とアラフィフのおじさんが暖簾(のれん)をくぐった。

 女将さんが出迎えた。

『いらっしゃいませー、あら、こんにちは。噂になっていましたのよ、御無事で何よりです』

「いやぁ、すみません。有言実行をモットーとしている私ですが、あの日のお昼に来れなくて申し訳なかったです。ちょっと色んな体験をしてしまいまして。でも、これからも宜しくお願いしますね」

『もちろんです。あ、そうそう、妹を呼びますね、お食事はいつもので?』

「はい、よろしくお願いします。食べるのが久しぶりで嬉しいですよ」

 妹さんを呼ぶという所はスルーしてしまった。女将さんの妹、若女将として大変美人で可愛らしさも同居しているアラサーの女性だ。密かに会えるのを楽しみにしていた。女将さんも美人だけど彼女は結婚されているからね!

 偶然にも行方不明になっていたぽっちゃり娘、彼女は女将さんの従妹だそう。

 あの日の武勇伝……。最後まであきらめなかった俺の姿を、ぽっちゃり娘さんが女将さんらに伝えたところ、妹さんがますます俺にゾッコンになってしまった……という話を後で聞くことになった。

 ぽっちゃり娘と一緒に居たスレンダーな方は? あの娘も幸せになってる筈だ。きっと。
(アラフィフおじさんはフトメスキーである)


『あ、あの、わたし、おじさんが毎年お店に来てくれているのを見ていて、いえ、初めてお店に来られた時に、あの、その、一目惚れしていました! わたしみたいな小母さんじゃ嫌だと思うのですけど、おじさんは独身だと聞いていましたし……、あの、それで、その……』

「何を仰られているのですか? 私の方が年齢は上なんですよ。出来ればこんな私でもお付き合いして頂けると幸いです。いえ、凄く嬉しいですよ」

 お付き合いの後、念願の家庭を持つことになったアラフィフのおじさん。
 末永くお幸せに。



 ――後日談――



 義孝の魔法に誘発されて、天庄川に現代日本初のダンジョンが出来てしまったことを未だ誰も知らなかった。義孝は女神から怒られた。罰として私にハグしなさいと強要されたという。


【Happy END】