軽いリップ音が響いた。
彼の体温を感じて、胸の中がパチパチと弾けた。
冬風にかきあげられた前髪。
マスク王子の柔らかい唇がおでこに触れて、そこからじわじわと熱を帯びていく。目を見開いたあたしの視界には目を閉じて、ゆっくりと離れていくマスク王子が映った。
『俺が、この世界に君を導く』
突然の出来事に言葉が出なかったのは、まじないのよう呟いた彼の表情が、浮世離れするほど美しく見えたからだ。
『俺の名前は、SORA』
そして、胸に手を添えて、口を開くんだ。
『お迎えにあがりました、プリンセス』
まるで、おとぎ話に出てくる王子様のように。
平凡よりも退屈で、何もない田舎町で、
変わり映えもしない景色。
そんな物語の1ページに、彼は突然現れた。
『優空くんっ!!ここに居たんですか!?探しましたよっ!!』
公園に響き渡る声に目を向ければ、スーツを着た若い男が冬にも関わらず汗だくで立っていた。大きな荷物を抱え、肩で息をする。スーツのポケットから取り出したハンカチでおでこを拭うと、疲れ果てた表情で口を開いた。
『急にこんな田舎町に来いだなんて、一体なに考えてるんですか。何にもなくて、タクシーもバスも走ってないんですよ』
『青木さん、俺、謹慎とけるかな?』
『えぇ?それは俺には何とも言えないですけど。強いて言うなら、寮で大人しくしてたほうがいいと思いますけどね。俺が今どれだけ候補を探しているか』
『だからさ、俺が見つけておいたよ』
『えぇ?』
『ほら、天使』
優空がそう呟いて、あたしに顔を向けた。
その声に誘導されるように、青木と呼ばれた男がへたれ顔をこちらに向ける。そして、ゆっくりと呟いた。
『天使、だ』
