死ぬ間際、走馬灯のように記憶が駆け巡るという。
今のあたしはまさにそれだ。
2ヶ月前の記憶が一瞬にして蘇った。
あの日、あたしは死ぬつもりだった。
2ヶ月前、突き刺すような冬風が吹き荒れる。
あたしは人より高い場所に立ち、田舎町を見下ろしていた。どこまでも続く山々がまるで牢獄の塀のように聳え立っていた。風が吹くたびに、木々は小枝を揺らして、カラカラとざわめく。
澄んだ空が、あたしには眩しかった。
ここから飛び降りれば、楽になれる。
そんなあたしに話しかけて来たのは、サングラスとマスクをした怪しい男だった。
『なにしているの?』
『自殺しようと思って』
『そこから落ちても骨折程度だよ?』
公園のジャングルジムの天辺に仁王立ちしたあたしを見上げて、コートのポケットに両手を突っ込んだ。
『うるさい変態だな。話しかけないでよ』
『なんで変態って思うの?』
素顔を隠して近づいてくる男なんて、変態以外にいるかってんだ。マスクマンが自信を持っているのは、このハニー色の髪だけだろう。
『ピチピチの可愛い女子高生にその格好で話しかけるなんて、見るからに怪しいに決まってるじゃない』
『毎日毎日、昼間からジャングルジムの天辺登ってるの見ていたら、気になるよ』
『毎日毎日って。あんたストーカー?気色悪』
『君が死ぬのは勿体ないよ。そこからじゃ死ねないと思うけど。自殺願望あるなら理由聞かせてよ。そこからじゃ死ねないと思うけど』
『理由なんてない。ただ、つまらない人生を生きる意味がわからないだけ。この町じゃ夢も叶えられない。逢いたい人にも逢えない』
『この町から出れば?』
それが出来たら、こんなところにいない。
そんなこと、今出会ったコイツに言うもんか。
