小悪魔DOLL【Ⅰ】







隣の店のコーヒーショップは若者で溢れかえり、人々が動く度にコーヒー豆の香りが漂った。




この街はどこに行っても人ばかりだ。

あの田舎町全員をこの街に詰め込んだって、今日一日出会った人々より少ないに違いない。

あの時、どうして天使が現れたのか、どうしてドレスアップされたのか。疑問はたくさんあるけれど、コーヒーショップのBGMが思考力を鈍らせて、考えることを放棄した。



『ここは【GOD BRESS COFFEE《ゴッド ブレス コーヒー》】っていうコーヒーショップだよ。って、あいく、寝てるの?』

散々走り回って、サロンは何時間も座りっぱなしで、疲れきった。店内に視線を向けていた里央が、あたしに瞳を戻した。

テーブルで微睡んでいると、里央が優しい声色を響かせた。




『寝顔も天使だけど、ちゃんと起きて僕だけを見てほしいな。だめ?』

『うるさいくそ天使ふぁっく』

『寝起き悪いんだね』

睡魔と格闘しながら顔を上げ、中指をたてると、天使がふふっと笑った。そして、目の前にコトンと音をたてて、何かを置いた。




『僕の天使の機嫌がなおりますように、どうぞ』

『なにこれ』

『クリームたっぷりのカフェモカだよ』

『こんな茶色い液体注文しやがって』




カフェモカの冷たさに、コップが汗をかく。

ホイップクリームの上にはココアパウダーとショコラソースがかかっている。

コップに描かれた【GOD BLESS COFFEE】のロゴは都会的で、あの田舎町では見たことがない。全体的には可愛いけれど、中身の飲み物は泥にも見える。公園で泥団子を作った時、こんな色していたもの。

自信満々に差し出す里央に不服な気持ちを抱きながらも、ストローを加えた。




『ミルクティー色すごく似合ってる。メークも素敵だよ』

頬杖をつきながら、容姿を褒める言葉など聞いてもいなかった。驚いた表情で、あたしは茶色い物体を見つめたんだ。


『なにこれ!!!おいしい……っ。これ、あたしの好きな味!!!!』

甘ったるいチョコレートの味が広がったと思えば、コーヒーの苦さがあとからやってくる。こんな美味しい飲み物を飲んだのは、生まれて初めてだ。

疲れ切った体へ染み渡るカフェモカに、いつの間にか苛立ちは消えていた。