『髪色はミルクティー、マツパ、ネイルはジェルで長さ出し、メークは天使みたいにお願いします、アリスさん?』
『はーい、里央くんの仰せのままに♪』
『宜しくお願いします。僕の大切な天使だから』
数時間前、初めてきた美容サロンを眺め回していたあたしを抱き寄せて、女性スタッフに向かってそう言った。どの単語も呪文みたいでよくわからない。
童話に出てきそうな大きな鏡前にはたくさんの小さな魔法瓶がたくさん並べられていて、色が100種類はありそうだ。色順に整列した小瓶の中には、キラキラしたラメの入ったものまであった。
ラックには大きなレースの服や、生地さえ全くない服もある。その下には踏みつけたら痛手を追いそうなほど鋭利なヒールが並べられていた。
物珍しさに、視線が忙しくなる。
『アリスさん、僕のネイルの柄、メンズ用であいくとペアにしてもらえます?』
『何の柄を、何?』
サロンに目を奪われていたあたしは眉間にしわを刻んで振り返る。里央はチェアに腰掛け、慣れたようにブランケットを膝にかけると、こちらに微笑みを向けた。
『いいでしょ?この後、お茶しに行きたいんだ。僕色に染まったあいくと並んで歩いて、コーヒーカップを持つ指先がお揃いで、とってもお似合いな天使系カップルだと思わない?』
『思わない!』
『わぁ、とっても素敵!』
天使の微笑みにやられたサロンスタッフのアリスに、あたしは苦虫をすり潰した顔を向けた。
それなのに、数時間後、本当に、……魔法にかかった。
田舎町に居た時とは比べ物にならないほど、
美しく華やかに儚げに、
まるで天使のように。
バニラホワイトのシフォンワンピースは女性らしい体のラインを見せ、高いヒールは一段と足を長く見せた。
あたしの髪も、まつげも、唇も、指先も、天使の色に染められた。
ミルクティー色の髪にそっと手を触れて、優しく撫でる。
鏡に映った里央を見つめるあたしの瞳は、長くカールしたまつげに一際大きく瞬いた。あたしの瞳は鏡のライトを吸収してキラキラと輝き、ぷっくりとしたチェリー色の唇が弧を描く。
鏡越しに目を合わせた里央があたしに向かって微笑みかけて、静かに口を開くの。
『鏡よ、鏡』
まるで、呪文を唱えるように。
『世界で1番天使なのは、誰ですか?』
その言葉に、あたしは真っすぐと鏡を見つめた。
ミルクティー色の髪に天使の輪が輝いて、迷いのない澄んだ瞳が見つめ返す。そして、チェリー色の唇が静かに答えを唱えるんだ。
『世界で1番天使なのは、あたし』
