「……くっそ」
「あんなオシャレな車、見た事無い」
「どこがオシャレだ。趣味わりー車、乗りやがって」
男は苦々しげにそう漏らし、フルフェイスを脱いだ。
ココア色の髪がさらさらと風になびく。
その素顔が気になって、覗き込む。くっきりとした二重、高い鼻、薄い唇、顎から耳に伸びる美しい輪郭ライン。今までこもって聞こえた彼の声が、何にも閉ざされることなく、鼓膜を揺さぶった。
あたしも彼の視線の先に目を向けた。
外車は車体もサイドミラーもライトも丸みを帯びた美しい曲線を描いている。田舎町では遭遇できないフォルムと色合いに目を奪われた。ハザードランプが点滅するリズムも心地が良い。そして、その車から車色と同じミルキー色の髪、ミルキーブラウンの瞳をした男が現れた。
中性的な顔は、まるで天使みたいだ。
「斗愛《とあ》、彼女のことを攫って何を企んでるの?」
「てめえは何の用だよ、里央《りお》」
斗愛と里央。
悪魔と天使。
ココアブラウンとミルキーブラウン、その瞳を交互に見つめて、そう思った。
「僕は悪魔から、彼女を守るために来たんだよ」
「は?」
「彼女はウエストウッドに所属した、天使系アイドル。ウエストウッドの問題児悪魔と一緒にいることを、事務所は望んでいないんだから」
「ウエストウッド所属……?」
眉間に深くシワを刻んで、斗愛があたしを見下ろした。
ココアブラウンの瞳が陰った。
視界の端で、ミルキー色の髪がなびいて天使が歩み寄る。
「あいく、初めまして。僕はウエストウッド所属、天使系アイドルRIO」
ピンク色の唇は綺麗な弧を描いて、口を開くんだ。
これから、自分の身に何が起こるのか、この時のあたしは知る由もなかった。
「君の時間を、僕にくれる?」
