《ちょっと、あの女が逃げる!》
《TOAを侮辱してただで済むと思うなよ!》
《RIOの何を知ってんだよ!お前は!》
ミルフィーユのように重なり合った女達が口々に叫び、1人の女に手を伸ばす。しかし、彼女はお尻をふりふりして、挑発する。
全員の顔にモザイクがかかっているけれど、とても見覚えがある。
《追いかけられるもんなら、来てみなさいよ。おしり、ぺんぺんぺ~ん!べろべろばぁ~~~~~~~~~~!!!!》
あの挑発の仕方、間違いなく、あたしだ。
数分前の出来事が、あの大きなモニターに流れている。
倒れ込んでいたはずの女達が一斉に立ち上がって、地面を蹴った。だから、あたしは逃げて逃げて逃げるしかなかったんだ。そして、人にぶつかってころんで転がって、バイクに轢かれかけた。
《あ!あいく!こっちですよこっち!なんで反対側に逃げるんすか!コラ!戻って来なさい!これから仕事に向かうのに!!》
青木の声がモニターから響いた。
あたしは今日、田舎町から都会にやってきた。
この街で、憧れている彼と同じトップアイドルになるために。
なのに、ポンコツマネージャー青木のせいで散々だ。
バイクは慣れたように、都会を駆け抜ける。
至る所で、横断歩道が交差していて、大勢の人の足音や話し声が重なり合う。電車が上にも下にも走っていて、溢れ出したハチミツみたいに人が溢れ出してくる。太陽の光を反射したビルは天まで伸びて、まるでビル同士が会話しているように、広告がたくさん流れていた。
そして、一つの広告看板に目を奪われた。
優しく微笑んで街を見下ろすその表情にドクンドクンと激しく脈打つ。10年前よりも、大人びた彼がそこにいた。
「……KANATA」
あたしの声は風に揉まれて消えた。
過ぎる景色の中で、彼だけがいつまでも視界のど真ん中に入ってくる。煽られる髪の間からずっと視線をそらさなかった、バイクが大通りから細い道に滑るように進むまで。
順調に進んでいたバイクの進行を遮るように一台の外車が道を塞ぐ。
キキィーーーーーーーー、両車のブレーキ音がこだまして、空に吸収された。
