8.話 ファウスト的な取引
地下の奥底、13階層下の祭壇に魔王とカリナが横たわっている。
目を覚ますと、天井の石壁や揺らめく、ろうそくが目に入った。カリナは驚き、身を起こした。
「わたし、生きている。…でもどうして?」
カリナは横たわる、魔王を見た。
─カリナ・オルデウス。我は気が変わった…。
魔王はそう言うと、押し黙った。
自分が死んで、生き返った事が、カリナは、まだ信じられない。
『ど、どうしよう…?またおかしな事言って、殺されたら。でも…でも、言わないと。』
単語ひとつで自分の命がどうにでもなってしまう、そんな言葉の重みでどうにかなってしまいそうだった。
──話せ。
苛立たしげに、魔王にそううながされて、カリナはこれまでの経緯を包み隠さず、話しはじめた。
聞き終わると、魔王が口を開く。
──なるほど、いきなり出現した、聖女に王太子を奪われ、婚約破棄をされた。
その後の家同士の政治闘争に負けて、お前だけが断罪され殺されたと──。
魔王はさして興味も無さそうに言い放つ。
──なるほど、人間に於いては、あるいは悲劇なのかもしれん。だが我からすれば、とるに足らない滑稽話し。
よくあると言えばそうだし、なんとも人間らしい愚かな事だ。
ここにきて、魔王の声にほんの少しの怒気が混じる。
──お前は、こんなくだらない些事のために、我を利用して復讐を果たしたいのか?
カリナはここで嘘をついてはいけないと、腹を括った。
「はい。貴方様のお力を借りなければ、哀れな人間のわたしは、惨めな死の命運から逃れる術がありません。」
カリナは言葉を続ける。
「貴方様と契約させて下さい。」
ではと、魔王は問いかける。
──ならばお前の命を未来永劫捧げよ。お前は2度と人としての輪廻は叶わず、我と共に地獄を彷徨うのだ。魔王との契約には永遠の魂の代償が伴うと知れ。
魔王は少し考えて、諭すように言う。
──くだらん復讐心など忘却せよ。
このまま、冤罪を抱えて、現世を去り、
お前らの信じる、神の循環の摂理へ帰れ。人の理から外れれば、未来永劫、二度と人に戻る事は叶わぬ事ぞ。
魔王はそう言うと、話を閉じた。
復讐を果たしても、わたしは命を奪われる。
いいえ、それどころか、人として死んで、天に昇る事さえも、許されなくなるのだ。
このまま冤罪を抱えて死ぬ方が、まだマシなのかも知れない。……でも。
──我は魔王ではあるが、儚い生命を慈しむ心はもちあわせている。もう帰るのだ、オルデウスの女。そして人として、不条理の現世を生きて去るのだ。
カリナは考える。
もう一度あの断頭台の前に立つ自分。
あの寒い日。冷たい聴衆、目を背ける家族、
むかし、愛した人。
2度と過ちは繰り返さない。
そう呟くとわたしは顔を上げた。
「貴方様との契約のため、わたしの魂を未来永劫、捧げます。」
そう言うと、魔王はほうと、やや意外そうに声を漏らした。
──復讐のため、我と契約するのか。
わたしは、はいときっぱり答えた。
───なるほど。その覚悟があるのなら、お前が我の花嫁に相応しいのか、一つ試練を与えよう。
そう魔王は言うと、カリナに一つの条件を突きつけた。
