5.話 魔王との接触
昔の事を知れば知るほど、我が家の地下に眠る、魔王がいかに人類に厄災をもたらしたのかを思い知らされる。
そして平和になった今、魔王の脅威はすっかり人々に、忘れられている事も。
我が家の屋敷の地下深く。
魔力でできた13の階層と13の門のその奥──。
封魔の魔法陣が何重にも敷設された祭壇、その中心に魔王が眠っている。
全身に黒づくめの装束。黒手袋に黒マスクで顔全体を覆い、長いマントの端は溢れ出る魔力にヒラヒラと、たなびいている。
一切肌の露出もなく女なのか男なのか、それすら分からない。両手、両足は、封魔の呪術が刻まれた鎖で、繋がれている。
魔力の無いわたしでも──分かる。ビリビリと毛が逆立つような圧。圧倒的な魔力が未だに溢れ出ている。
世界にちらばる、打ち捨てられた古代の塔、そこに残された古代の記述。
古の魔王は、女を攫い、自らの子種を宿し、孕んだ女は魔女となり世界各地でさまざまな、災厄を撒き散らしたとある。
魔王そのものはもとより、この魔女や魔王の子供たちが強力な軍勢となり世界に破滅の危機をもたらした。
わたしはぐっと息を吸い、覚悟を決めていた。
『この魔王の子を孕めれば。魔王の子供の強大な魔力を腹に宿すことができれば。とてつもなく強力な魔女になれる。』
父や兄、家族の求めに応じて、貞淑な、淑女として、育てられたわたし。
令嬢として、恥ずかしくない振る舞いを叩き込まれ、それが自分なんだと信じてきた。
そんな優等生なわたしが、おおよそ、恥知らずの色情狂としか、思えない、魔王の情婦になるという狂行──。それをするなんて、今までなら考えられない。
でも、わたしは……もう、ためらわない。
無力なために、抵抗できず、力なく踏みにじられたりしない。
わたしは封魔の魔法陣の中心に歩みを進めていく。
──誰だ。なぜ我に近づく。
胸の奥に響く、音の無い声が聞こえる。
「魔王様、私は貴方様を助けに、馳せ参じた者でございます。」
──助けなどいらぬ。人間よ死にたくなければ去れ。
「貴方様はこの様な所で囚われて、ご不満ではありませんか?」
──我には分かる。お前は我を封じた、オルデウスの者では無いのか?なにを企んでおる。
わたしは少したじろぎながら、言葉を続ける。
「はい。仰せの通りでございます。ですが、私は……オルデウスを、心から憎む者でございます。」
──なるほど。みたところお前は魔力がまるで無いように見えるが。封魔の結界をどうするのだ。
「それは、貴方さまの──。」
