魔力ゼロの悪役令嬢が 最強の魔女になれたのは、優しい魔王さまの嫁だから

23話 聖女の奇跡



──その同時刻のこと。


王太后の私邸(してい)の寝室にて。王太后は病で、ふせっていた。


そこに、ローレライ•ローレンスは聖女として、王太后に治癒(ちゆ)の祈りを捧げている。


神から与えられる、慈悲の温かい光が、暗い病人の寝室に広がった。


王太后は目を覚ます。


「わたくしは……。」


(そば)で見ていた、王太子リアルは、
この奇跡を目の当たりにして、言いようのない感銘(かんめい)を受けていた。


「ありがとう聖女ローレライ、君が聖女だったなんて。なんとお礼をしていいか。」


「そんな。もったいないお言葉。私はこの国のためにお役に立ちたいと願っておりましたから。」


リアルは感激しきりで、聖女ローレライに何かを返したいと、望んでいた。


「どうか、お祖母様の治癒のお礼をかねて、君を夜会に招きたいんだが。」


聖女ローレライは恐縮して答える。


「それは……カリナが誤解すると、悪いので辞退(じたい)させてください。」


「そんな事気にする必要はない。これはお礼なのだから。」


──その晩


王太后の回復祝いもかねて、夜会は盛大に開かれた。


にぎわう、夜会の会場を離れて、


リアル王太子と聖女ローレライは、バルコニーで語らっている。


「聖女ローレライ、君を、お妃候補から外すなんて、王妃はなんて見る目が無いのだろう。」


「もったいない、お言葉です。」


「ありがとう。君のような人を僕は待っていたのかもしれない……」


王太子リアルと聖女ローレライは、人目を避けるように、バルコニーのすみで庭園を見ていた。


「聖女ローレライ、君は僕の事どう思っている?」


「そ……れは、敬愛(けいあい)しております。」


「そう、ではなくて。」


「あ……あの、親友のカリナが嫉妬すると悪いですから、今日はもう…おいとまします。」


そこで召使がリアルに何事かを伝えに、控えている。


「なんだ?」


王太子が尋ね、召使は話しだす。


「それが、婚約者のカリナ•オルデウス様がいらっしゃっています。」


王太子リアルは(いぶか)しがる。


「…?なぜカリナがこんな時間に?」


リアルの夜会に、カリナは招かれてはいなかった。


しかし、緊急事態のため突然、カリナは訪ねて行く。


「王太子様、突然お訪ねして申し訳わけありません。

実はこの度、大変なことが分かりまして。

…こちらです。」


そう言って、カリナは例の行商人が見せた、薬草の伝票を見せた。


王太子は不審がって、カリナを見返した。


「コレは何なのだ、ローレライの署名があるが。」


「実は、ローレライが王太后様に、例の薬草を飲ませるよう、画策(かくさく)していたことが分かりまして…。」


王太子リアルは、ワナワナと怒りで震えだす。


「そなた、自分が何を言っているのか、分かっているのか?!」


「本当です!信じて下さい。」


カリナは必死で訴える。


しかし、カリナはハッとする。


王太子リアルの後ろに、ローレライその人が、控えていたからだった。


「ローレライ…どうしてここに…。」


王太子リアルはカリナに告げる。


「聖女ローレライは、王太后に治癒(ちゆ)の祈りを与えてくれたんだ。」


王太子リアルは、ふっと寂しげに笑った。


「そのおかげで、今日、お祖母様は目を覚ましたんだ。」


だが、王太子リアルは、急に表情を変え、怒りで声を震わす。


「それなのに、君は今の今まで何をしていたんだ!」


カリナは力無く、呟く。


「聖女…ローレライ…」


知らなかった、ローレライが聖女に目覚めていたなんて。


王太子はなおも、カリナを責める。


「カリナ、君は嫉妬(しっと)に狂って、聖女ローレライをおとしめようと、しているんだな。」


「お願いです。信じて下さい!」


「こ…こちらに、証人の行商人の女もいます!!」


行商人の女が引っ立てられて来る。


しかし、この女はこう言って、王太子を捲し立てる。


「王子さま、騙されちゃいけない!!

アタイは、このカリナとかいう女に、頼まれて嘘の証言をするよう、ここに連れてこられたのさ!!」


カリナは悲鳴のように、叫んだ。


「あなた…!!なんてこというの?!!」


王太子リアルは、侮蔑(ぶべつ)の表情を浮かべ、カリナに言った。


「カリナ、君には失望したよ。」


そして、静かに宣言する。


「誰か、この者を独房(どくぼう)に入れておけ」


そう言うと、衛兵はカリナを拘束する。


カリナは衛兵に引っ立てられていく。


「待って下さい!お願いします!」


そこに聖女ローレライが割って入った。


「王太子様!」


「カリナを責めないで下さい。王太子様の愛を失うのが怖くて、このようなことを、しでかしたのです。」


王太子は聖女ローレライの話しに耳を傾ける。


「どうか、処罰などはお考えにならないで、一生のお願いでございます。」


王太子リアルはその言葉に感動している。


「ローレライ君はなんて素晴らしい人なんだ。」


そして考えを変えた。


「わかった。この女の罪は許そう。」


王太子はカリナをキッと睨みつけ、こう言った。


「だが、このような王太子妃は、ごめんだ。」


そう言って、カリナの腕を乱暴に引っ張る。


「今、ちょうど夜会中だ。」


そう言うと、夜会の会場の中心に、強引にカリナを引っ張っていく。


会場の聴衆は何事かと、王太子たちを眺めている。


今宵(こよい)、この時をもって、

カリナ•オルデウスとの、

婚約を破棄させてもらう!!」


ざわつく会場、ほくそ笑む、聖女が見えた。


カリナは絶望で目の前が、真っ暗になる。


頭の中は、ひとつの言葉がぐるぐると回る。


『もう、愛も何も、信じない。』


─ひとまず、

王妃の嘆願(たんがん)のおかげもあり、

カリナ•オルデウスの王太后、毒殺騒ぎは、証拠不十分として、不問となった。