魔力ゼロの悪役令嬢が 最強の魔女になれたのは、優しい魔王さまの嫁だから

11話 復讐への決意



『なんだか、魔王様…弱そう。』


失意の底に意識を持っていかれ、魔王を前にして挨拶も忘れている。


「カリナ•オルデウス、聞いているのか?」


わたしは話しかけられ、ようやく我に返った。わたしは、うやうやしく挨拶すると魔王様に尋ねる。


「ずいぶんお若いのですね、魔王様はおいくつであらせられますか?」


「我は若いのではない。長い年月の眠りで、いまは魔力が一時的に縮んでいるだけなのだ。」


『あれ、なんだか、おかしい魔王様が、こっちをみない。どうされたのか、目をそらされる。そういえば、お顔も紅潮(こうちょう)されておられるような。』


ご病気でしょうかと、顔を近づけると露骨に避けられる。


「もしかして、…魔王様、何か照れてらっしゃいますか?」


それを聞いて、なぜか、魔王は焦りだす。


「我がなぜお前ごときに、恥ずかしがるのか、立場をわきまえろ。

貴人(きじん)尊顔(そんがん)を、凝視する事が、失礼にあたると何故、気付かぬのか。」


それを聞いて、カリナ•オルデウスは恐縮しきりで、深く謝罪した。でもなんだか釈然としない。

まぁ、でも何か恥ずかしがるような心当たりもなく、カリナ•オルデウスは考え直した。


「お前は、そもそもなんとも思わないのか、その、あれをして。」


カリナは魔王が片手で紅顔を隠して、ボソボソと呟いた事に気付かない。


きっと魔王様も目覚めたばかりで、体調がよろしくないのかも知れない。カリナはそう考える事にした。


カリナ•オルデウスは気づいていない。魔王との(ちぎ)りの際なにがあったのか。


そして魔王にとってもまた、ソレが初めての経験だった事を。


魔王は自らの手首に触れながら、かつて自分を捕らえていた、封魔の鎖をいちべつする。


──解せぬ。これは何かがおかしい…。


今度は、封魔の魔法陣を観察する。注意深く見る事で、ある事に気づく。
魔王は眉根(まゆね)を押さえて、考え込む。


『これは魔法陣が書き換えられている。このような事が出来るものは、我を除いて、そう多くはあるまい…。』


何故、カリナ・オルデウスが魔力を送る前に、(かせ)が緩んだのか。


『何者かが、カリナが封印を破る前に、我の封印を解いたとしか、思えぬ…。』


魔王はそこまで、考えると、カリナを見返して()う。


「これからどうするのだ。」


カリナから、表情がさっと消え、ゆっくりと呟く。


「復讐を」


そう言って魔王を見つめた。
 


──しかる(のち)


カリナ•オルデウスと魔王は、オルデウス邸のカリナの私室にいた。


「なるほど、ここがお前の部屋か…」


「はい。お手間取(てまと)らせて、すみません。」


「もうこの国には、いられませんので、出来るだけ処分をしようと思いまして。」


「しかし、すごい読書量だな。」


魔王はカリナの蔵書量(ぞうしょりょう)や積み上げられた、研究資料に感心している。


「それによく研究してある。知識もカンストしているようだ。」


そう言いながら、カリナの書いた、論文などに目を通す。ペラペラとページを巡りながら、やたらと真剣に読まれている。


カリナはあまりにも、恥ずかしくて、申し訳なくて、変な反応をしてしまう。


「す、すすす、すみません。なんだか、独りよがりな、研究で…」


「いや。お前はすごいな。なかなかできる事ではない。」


その言葉に、カリナは真っ赤になって照れてしまう。


『どうして、あんな失礼なこと思ってしまったんだろう…』


カリナは、先程の非礼で短慮(たんりょ)な、魔王に対する感想を深く恥じた。



「そんな…褒められたのは、生まれて、は…はじめてです。」


「みんな、わたしのすることは無駄だって言われてましたから。」


そう言って自分で、あははと、苦笑した。



魔王は急に真顔になり、カリナの顔を間近にみる。


「なぜ、自分を過小評価する。この世の中は正しい事は正しいし、間違っている事は間違っている。ただ、それだけのことだ…」
 

カリナは、それを聞くと、なぜか涙がぽたぽたと、垂れてきてしまうのだった。



「ははっ…。そうなんでしょうか」



「今まで、家族から、わたしなんて、死んでもどうでもいいと思われてましたから…」



「そうか……。」



「だが少なくとも、


これから先、我はお前の味方だ。」



その言葉は、カリナにとって、いま一番に欲しい言葉だった。



魔王はそう言うと、また、資料に目を落とす。


『…もう二度と泣かない』


『そして、魔王様の役に立つ、強力な魔女になるんだ…』



カリナは、そう心に誓った。