バイクを止めながらそう言った野間を無視して、前を振り向けば。
アオイはもう、夜の闇に溶けるように背中を向けて、立ち去っていくところだった。
……あの子は、なに?
呆然としていると、背後から近づいてきた野間が私の肩をそっと叩いた。
「カナコさん」
「ねぇ、野間くん」
「なんすか?」
「あの子、知ってる?」
小さくなっていく背中を指さした。
野間は、「ああ」と一言置くと、いつもの飄々とした口調で答えた。
「紫藤さんのストーカーっす」
「ストーカー……?」
「……。気にしないでいいっすよ。帰りましょ」
私はそっぽを向いて「嫌だ」と、肩に置かれた手を払い退けた。
「わかってます。リビドーには返しません。カナコさんの家に返します。……今度こそ」
そう言った野間に「うん」と返事をした。
だけど帰るにはまだ時間が早かったので、時間を潰したいことを伝えれば、彼は「いっすよ」と嫌な顔一つせず、さっきまでアオイの居たコンクリートブロックの上に腰を下ろした。
「………」
「………」
野間とは話す気がなかった。
彼だって、私に話しかけようとしなかった。
いや。
終始こちらの顔色を窺っている様子から察すれば、野間とは話したくない私を尊重してたのかもしれない。
野間は夜が明けるその時間まで。
ただ黙ってスマホを見つめる私のすぐ傍で、冷たい夜風を遮るようにして静かに寄り添ってくれていた。

