私がいくら片付けを手伝うと言っても、野間は頑なに断り続けた。
仕方がないので部屋に戻ろうと思った、その矢先のこと。
「お疲れ様っす」
シドが帰ってきた。
「………」
その姿に、私は息を呑んだ。
だって……血まみれ。
血は、シドのものじゃない。
そんなことは見てすぐにわかった。
白いシャツに点々と飛び散った赤黒い跡は、返り血。
カウンターチェアに座る私の前で、シドの足がピタリと止まる。
恐る恐る、その顔を見上げた。
「………」
黒い前髪の隙間から覗く瞳に、ゾクリと身体が震える。
怯えて身を縮めると、二の腕をガツッと掴まれた。
「……痛いっ」
無理やり立たされ、そのまま後ろ向きに引きずられる。
「な……に?」
シド、どうしたの。
ガコ、ガコ、ガコ。
シドが歩くたび、木製の床が悲鳴を上げた。
「退け」
「紫藤さん、ちょっと落ち着いてください……」
「……退け!!」
シドの身体越しに衝撃が伝わってくる。
ドンッ!
重たいものがぶつかる音を聞くと、野間がカウンターに突っ伏していた。
シドにとって、まるで障害物。
野間を払いのけたシドは、カウンターの内側を突き進み、私を連れて部屋に入る。
ドアが閉まる直前に見た、野間の姿。
殴られた頬を押さえ、辛そうに目を伏せていた。
右手の中指に彫られた目玉だけが、無機質な瞳で私を見つめていた。


