「……ま、前にさ。一つだけ教えてって言ったの、覚えてる?」
「………」
「私は答えたのに、まだあなたは答えてくれてないよね」
――『待って、一つだけ教えてほしい』
――『……だったら私も一つ教えてほしい』
AnBarの前で、露天商から取り返したカメラを返したとき。
彼女の質問には答えたけれど、私はまだ質問を終えていなかった。
女の子はそこでやっと足を止めた。
「なんだ」
やっと振り向いてくれた彼女に、私の口元からは自然と小さな笑みがこぼれた。
「………」
けど、どうしよう。
何を質問しよう。
質問はたった一つだけ。
一番聞きたいことを聞くべきだと思う。
彼女に聞きたいことはいっぱいあった。
だけど、どれも一言の質問で収まりそうにない。
私はあの時、何を聞こうと思ってたんだっけ。
「話さないなら帰る」
「……あ、待って!」
よし、決めた。
「名前教えて?」
「……はぁ?」
女の子はあからさまに顔の輪郭を歪めて、馬鹿か?って具合の心底呆れた顔をこちらに向ける。
だって仕方ないじゃない。
呼び止めたいのに、私はあなたの名前を知らない。

