悲惨な光景が広がるリビドー。
割れたガラスや酒瓶をパキパキと踏みながら中へ進み、促されるまま椅子に掛けた。
「とりあえず、顔冷やしますか」
カウンターの中で氷を挟んだおしぼりを用意し、差し出してくれた野間。
受け取ってズキズキと痛む頬に当てる。
「他、どっか殴られたり、痛むところありますか?」
「殴られたけど、手当てするほどでもないから大丈夫」
「一応聞きますけど、殴られただけっすよね?」
「うん」
「よかった……」
そう言った野間は言葉とは裏腹に落ち着かない様子だった。
それほどに大変なことが起きてしまったのか、それとも野間だって本当は私の看病じゃなくて男たちを殴りに行きたいのか。
どっちなんだろう?
「ここって安全な場所じゃなかったの?」
塵取りと箒を持って、静かに片付けを始めた野間の背中にぽつりと尋ねた。
「上手くしてやられましたね。シトウの真ん中ででっかい騒動があって、そっちに人員が流れてる隙に、ここの見張りが全員やられてました」
「こういうことってよくあるの?」
「まぁ、全くないってことはないです」
「シトウっぽいね」
「……巻き込んじゃって、すみません」
「なんで野間くんが謝るの」
とても不憫そうな顔でこちらを見る野間の顔。
殴られたからだろうか。
怖い思いをさせたからだろうか。
私はもう、それ以上何も聞かなかった。

