星降る夜に、あの日のキスをもう一度


 一方、ドランベルの当主の座は今日、無事グレンに譲られた。
 タブレットで誕生日を祝うメッセージが息子たちから届き、代わりにアンジェラからは当主就任を祝うメッセージを送った。

(これで本当に終わったんだわ)

 大きく息をつき、今後のことを考えようとして首を傾げる。
 ここ数日のことを思い返して、やはり思い違いではない? と思った。

 アンジェラの三つ分の前世、すべての記憶が薄いのだ。覚えていないわけではない。けれど遠い。
 それは自分の体験というよりも誰か違う人の人生を見聞きしたような、伝記や小説を読んだような、そんな遠い感覚だった。今日本人だったなら、つい最近印象深い3D映画を三本見てきたような――、というのが一番近い感じだろうか。

 三日前にこの世界での記憶に苦しんだ時、コンラッドに抱きしめられて落ち着きを取り戻した。だからこそ街に行っても普通に振る舞うことができ、(おや?)と思ったのだ。
 一緒に散歩して抱き寄せられたあともそうだった。

 アンジェラの年齢のせいだろうか。それともコンラッドのおかげなのだろうか。

(確認したいから抱きしめてほしいとは、流石に言えないけれど)

 せっかく彼が友好的な距離を保ってくれているのに、余計なことは言えない。

 その時ヴィクトリアから【誕生日おめでとう、アンジェラ】と、優美な文字でメッセージが入った。彼女とは、エドガーのことで迷惑をかけたわね、などの謝罪の後は話していない。このタブレットはエドガーに渡すつもりなので、慣れてもらうために昨日までは彼の元にあったのだ。

 彼が街に行くというときは、こちらで作った二枚のタブレットを予備のチップで繋ぎ、エドガーには自分の分のタブレットをもって行かせた。館にはコンラッドの分を置いていってもらい、途中で何度かメッセージのやり取りをしたけれど、問題なく使えたので安心した。
 今日は午前中だけアンジェラ専用になっているだけだ。

「ありがとう。はじめて四十歳になったわ」

 子どもの頃のようにおどけた笑顔の絵を末尾に足してメッセージを送ると、【誰だってそうよ】と返ってくる。
 猫のように目を細めて、面白そうに微笑むヴィクトリアの顔が見えるようだ。

(誰でもそう。それが当たり前なのよね。前の人生を覚えているほうがおかしいのだから)

 タブレットをエドガー専用にしていた理由の一つは、アンジェラが使うと余計なことを言ってしまいそうな予感がしたからだ。
 彼女の子どもたちには普段通り、むこうの様子を聞いて、こちらの現状を簡潔に教える程度で済む。心配はしているだろうけれど、ナタリーからの旦那様(コンラッド)への信頼感に加えグレンからの暁の狼への信頼が加わったらしく、【心配はしていない】と、ある意味さめた返事が来たので安心していた。

 ナタリーの体調は安定しているようで、昨日の午後はずっとメロディとメッセージのやり取りをしていたくらいだ。楽しそうで何よりである。

 でもヴィクトリアが相手だと、例え文章だけでも隠し事が難しい。
 昔から彼女には『何でも話してくれるようでいて、アンジェラは基本秘密主義よね?』と言われていた。