星降る夜に、あの日のキスをもう一度


 月の女神は狩猟と女性を守る神。
 何度も死んでは生まれ変わる再生の女神でもある。

「アンジェラ。私は貴女が好きだ」

 小さく口にしたことで、それをまだ一度も言葉にして伝えてはいないことに気がついた。できるだけ想いを言葉にしようと必死で話したはずなのに、肝心のことが言えてないなんて。

 アンジェラが好きだ。
 十代の頃の控えめでありながら輝く笑顔も、ずっと年上のふりをして群がる男どもや魔獣を簡単に蹴散らす姿も。どんな名前でも、いくつでも、彼女が誰であってもコンラッドはきっと彼女を好きになる。
 まるでコンラッドの魂の中にアンジェラという枠がぽっかり空いているように、そこを埋められるのは彼女しかいないとさえ思う。

 月の女神のように、何度生まれ変わっても自分は彼女を愛するんじゃないかと思って、その感傷めいた気持ちに笑いがこぼれた。いくつになっても恋をすると男は詩人になると言ったのは誰だったかな。


 アンジェラから間もなく元の世界に戻れるだろうと聞いても、コンラッドは正直複雑だった。今なら彼女がこんなにそばに居るのに、戻れば多分彼女は離れる。
 もしかしなくても逃げられてしまう。
 ナタリーの代わりに仕事で来てくれているのだから、アンジェラはしばらく通ってくれるはずなのに。たとえそれがなくても、一緒に仕事をしようと誘ってくれたのに。それでもチャンスはここにいる間だけだと己の勘が告げていた。

 惹かれているのは自分だけではないと。ふとした時の彼女の眼差しを思い出すとそう信じたくなる。

(貴女が強く生きられるという、思い出の相手は誰なんだ?)

 その男のことを忘れたら、彼女はコンラッドだけを見てくれるだろうか。

 少しだけ開いている唇に触れたくなったものの、キスはダメだと言われているのであきらめた。眠っている女性にさすがにそれはできない。
 もう一度キス出来たら、きっと彼女は――。

 ふわりと浮かんだ甘やかな空想に首を振り、代わりに前髪をかき上げてその額に口づける。

「これは頑張っているあなたへのご褒美だよ、アンジェラ」

 彼女が子どもたちにしたのと同じで、キスではない。

 その考えに満足して頷くと、コンラッドはカーテンを引いてからそっと部屋を出た。


 コンラッドが暁の狼だと聞いたというグレンから、【母のことで話がしたい】と通知が入ったのは、コンラッドがリビングに戻ってすぐのことだった。