星降る夜に、あの日のキスをもう一度

 エドガーのことは一時本気で自分の子かもしれないと思ったこともあって(計算してみたらすぐに分かったことなのに)、奇妙なくらい親しい存在に感じられた。最後に会ったのは十年くらい前だったか。よく見れば彼の妹とよく似ているのに、よくそんな思い違いをしたものだと笑いがこみ上げてくる。
 これは腕白で飛び回っていると、なかなか会わせてくれなかったヴィクトリアに文句でも言うべきか。

 もっとも言ったところで、どうしてそう考えたのか根掘り葉掘り聞かれた上で、からかい倒されるところは目に見えるのだが。
 彼女はコンラッドがヒィズルにいたことは知っているが、多分当初の予定通りカーサ地方にいたと考えているだろうし、アンジェラと関わっていたことなんて想像もしていないだろう。

 彼女は不用意に噂話はしない。現にコンラッドの前でアンジェラの話をしたことは、卒業以降一度もないのだから。



 その後すぐにアンジェラを部屋に運びベッドに横たえても、彼女はぐっすり眠ったままだった。
 彼女の靴を脱がしてから、静かに上掛けをかけてやる。
 コンラッドはベッドのそばに椅子を持ってくるとそこに座って、静かに深くため息を吐いた。

 すやすやと眠るアンジェラの顔は安らかで、ただ眠っているだけだと分かることが幸いだ。眠っている顔は無防備で幼く見えるくらいだが、間近で顔を見れば目尻に薄いシワが見える。彼女の笑った顔が自然と思い浮かび、知らず口の端が上がった。
 笑顔の多いアンジェラは、年を重ねるごとに目元の皺が深くなっていくのだろう。昨日の朝そう見せていたように、実際に年をとってもかわいい女性になっているであろうことが容易に想像がつく。

(貴女と一緒に年を取っていけたらいいのに)

 お互いの髪が白くなった時、隣で笑いあえたらと願わずにはいられない。

 この人を想う気持ちが蘇ってしまった今、若いころと同じように彼女に触れたい気持ちは、時に抑えがたいほど強かった。でもそれと同じくらい、いや、それ以上にアンジェラを労りたい、大事にしたいと思う。

(たとえ彼女がバケモノだろうと、それは変わらないだろう)

 少し前にエドガーがアンジェラのことをそう評したとき、昔ヴィクトリアから言われた言葉が頭の中に響いた。

『でも隣に立つなら、守ってくれるよりも一緒に戦ってくれる人ではないとだめよ。それくらい、あの子の抱えているものは大きい……』

 昨日街に行く途中、急に苦しんでいたアンジェラの姿や、矢を放つアンジェラ。コンラッドでさえ見れば分かるほど強いエドガーの力を抑え、コントロール出来るよう手を入れる姿。
 ヒィズルでの勇ましい姿。
 人並外れた発想力と、実現力。
 彼女の優しい笑顔や、労わるように触れてくる手。コンラッドを見つめる、紫色に染まった目。
 様々なアンジェラの姿が一瞬のうちに浮かんだ。

 エドガーにバケモノとはどういう意味だったのかと尋ねると、彼は『あの人は月の女神だから』と言うのでドキリとした。
 一瞬学生時代の仮装の話かと思ったけれど、どうやら神話の方を指しているらしいことが分かる。今はアンジェラを休ませる方が先決だからあとでと言ったエドガーは、十六歳の少年というよりはいっぱしの男だった。

「君は何と戦っている?」