星降る夜に、あの日のキスをもう一度


 アンジェラがエドガーを手招きすると、横からのぞいていたコンラッドが、「それなら私がしましょう」と手を出す。

「いえ、旦那様には力を温存していてもらいたいので、ここは彼に頼みます」
「温存?」
「はい。この後力になっていただきたいので」
「……わかりました。貴女がそう言うなら」

 不承不承頷いたコンラッドに微笑み、エドガーに箱を渡す。

「できるだけ細かい粉にしてほしいの。柔らかく感じるくらいに細かく。砕いたあと、ギュッと圧縮してすりつぶして。できそう?」
「了解です。さっき解放した分の力もあるから簡単だ」

 ざっくりした説明にもかかわらず、エドガーはワクワクした表情でアンジェラに言われた通りに魔力で力をかけてすべて粉にした。息を吹き込めば舞い上がりそうな黒い粉は理想通りの出来だ。

「素晴らしいわ」

 次に先ほどのスタウルの寸法を測って、縦と横の比率が三対四になるよう線を引いた。
 この線の通りにカットするよう、またエドガーに頼もうかと思ったものの、首の後ろあたりにコンラッドの視線がチリチリするので結局彼に頼むことにする。

(一度は甘えておかないと、絶対引かなそうだものね)

 コンラッドを見ると、何を考えてるのかよく分からない彫像のような表情になっている。その冷たい顔は学生時代を思い出させ、アンジェラはつい口元を緩めた。
 暁の狼だった頃の彼なら、同じ表情でも何かを真剣に考えている時の顔に見えていたはずだとわかったからだ。

「旦那様。怖い顔になってますわ」

 アンジェラが柔らかく微笑んで見せると、コンラッドはハッとして、次いできまりが悪そうに小さく笑った。

「すみません。色々考え事をしていて」

 怖かったですか? と小声で聞かれ、アンジェラは励ますように彼の手を軽く二回トトンと叩いた。

「いいえ、まったく。旦那様にお願いがあるんです。これらの(スタウル)を、線の通りに切りたいんです。お任せできますか?」
「お安い御用です!」

 パッと輝いた顔に思わずキュンとしてしまい、アンジェラは思わず目を伏せる。彼の美しい彫像のような顔よりも、子どものようにキラキラ光る眼の破壊力に内心頭を抱えた。早く離れないと後戻りが出来なくなる。そんな危険な予感にゾッとする。


「剣をふるうので、外のほうがいいでしょう。すぐ戻ります」
「ええ、お願いします」

 立ち上がる彼に、一瞬愛し気に頬を撫でられたアンジェラは息を飲み、湧き上がる何かの気持ちとふいに溢れそうになった涙を必死に押し殺した――。